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ぎとぎとチキン
ぎとぎとチキン
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Trick or …

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それが一般的かどうかはさておき、全国共通で10月31日はハロウィンである。
本来では収穫祭であり魔除けの意味があったりするのだが、ここ日本では、仮装したり、かぼちゃのお菓子を食べたりするのが一般的である。
別に強制ではないが、街を彩る橙色と黒に触発されて、この時期だけのお菓子を思わず手に取ってみたり、気軽に仮装衣装が手に入る大型店が近場にある事もあってか、ここ、池袋でもハロウィンはそれなりのにぎわいを見せていた。
新宿の情報屋である折原臨也もハロウィンが近づいている事には気付いていたが、仮装したりして盛り上がるよりも、そんな盛り上がる人々を眺めて「馬鹿じゃないの!」と笑う方が好きな人種である。
決して、友達がいないからではない、というのが彼の主張だ。
そんな10月31日の早朝、本来ならば例年通り盛り上がる人々をせせら笑うはずが、とある人物から一通のメールが届いた事から、事態は一変した。
メールの内容は、夕方6時に自宅に来て欲しいというお誘い。(注釈として仮装禁止と書かれていた)
そんな事になったら、もう、臨也が張り切るのも仕方がない事であろう。
なにしろ、メールをくれた人物というのが、臨也が好意を寄せている竜ヶ峰帝人だったのだから。
勝手に帝人を恋人認証している臨也としては、楽しませてあげねばなるまい、といそいそ大量のお菓子を用意した。
臨也に対して仮装禁止、という事は、帝人が仮装している可能性が高い。
なにしろ彼は初都会な未成年かつ苦学生なので、仮装して臨也からお菓子を貰うつもりなのだろう、と判断した。
帝人からメールが来た途端いつものコートを羽織って事務所を飛び出した臨也は、店が開店するなり様々な高級菓子、ハロウィン限定のもの、はては何故か南瓜の煮物まで嬉々として買いまくり、その総量は大判紙袋2つまでに及んだ。
常時ニヤニヤしている男ではあるが、ときおり思い出し笑いをする上に「ハロウィンラブ!」などと叫ぶ異様さに、周りはドン引きであった。
折原臨也、せせら笑う予定など星の彼方に投げ飛ばしである。


同日夕方6時10分前。
折原臨也は紙袋を腕にぶる下げて、スキップで帝人の部屋の前まで来ると、古めかしいチャイムを鳴らした。
スキップで階段を登れる辺り、無駄に身体能力に優れているといえよう。
帝人の部屋の前に来たのは10分前だが、実際はアパートの前で30分程うろうろしている。
不審者として通報されないのは、既に付近の住民が彼の姿に慣れ、関わらない方がいいとの暗黙の了解のもとスルーされたからなのであるが、帝人はその事を知らない。(知っていたら断固拒否しただろう、現在も断固拒否してはいるのだが、なおさら強く)
どこか気の抜けたチャイム音の後、いつもは帝人がドアを開けてくれるのだが、今回は部屋の中から「開いてますから、どうぞ」という声が聞こえた。
相手も確認せずに入っていいなんて危ない!もし児童性愛者だったらどうするんだ!もしくは変態!などと臨也は愕然としたが、自身がそのカテゴリーに入っているという自覚は無い。(というかそもそも帝人は児童ではない)
臨也はちょっと叱ってやらねば、と思いながら扉を開けて。
あけ、て。
その考えが吹っ飛んだ。

えぇえええ、予想外!

扉の内側、つまり帝人の部屋の中には、大きなカボチャがあった。
あった、というか、居た。
どこかカクカクした不格好なジャック・オー・ランタンは地面に置かれて、底からは黒いズボンに覆われた足。(つまり座った状態)
なんだか哀愁を誘う雰囲気なのは、なぜだろうか。
てっきり帝人の事だから白いシーツでも被っておばけを装うとか、お手軽で安く済む方法で来ると思っていたので、臨也は彼にしては珍しい事に、うっかり驚愕してしまい、咄嗟に言葉が出なかった。
しかし、すぐに我に返ると、一応念の為問いかけた。

「ええと、帝人…くん?」
「はい。」
「ああ、そうだよねそうだよね!匂いからしてそうだとは思ってたけど、本当帝人君は予想を超えるよね!」
「匂いとかキモイです。」

未だ幼さを残す声も、鋭い切り替えしも帝人のもので、臨也はホッとして調子を取り戻した。
ああ、そうだ、うっかり普通の問いかけをしてしまったけれども、本来問いかけるのは仮装したおばけの方だ。
帝人(という名のカボチャ)の前に座って、wktkと待っていると、かぼちゃがかくりと揺れた。
そして。

「臨也さん、Trick or die?」
「ああうん、お菓子なら沢山……て、え?」
「とりっくおあ、だい、です。」
「え、ちょ、悪戯か死ねってどゆ事?!」
「そのまんまです。どっちがいいですか。」

どっちもなにも。
思わず呆然としてしまい(だってあまりに理不尽な選択!)つい敬語で「いたずらが、いいです」なんて言ってしまいながら目を瞬いていると、帝人は臨也の答えが分かっていたかのように(まあ普通は死を選ばないよね!)かぽり、被っていたカボチャを脱いだ。
まあ途中中で引っかかったりしていたようだが、そこは割愛。
そうして中から出てきたのは。

「…………なんで、シズちゃんのコスプレ?」
「ええまあ、臨也さんが嫌がりそうな事を本気で考えた結果です。」
「……………なんでそんなことを、ほんきでかんがえるひつようがあるの…。」
「ハロウィンですから。」

バーテン服にサングラス、しかも髪は金髪という、池袋が誇る名物、もとい喧嘩人形の平和島静雄と同じ恰好をした帝人は、どこか自慢げに胸を張って説明する。
曰くこの髪は特殊スプレーで、専用シャンプーで綺麗に落ちるだとか、バーテン服とカボチャは演劇部からの借り物、だとか、組み立てに2時間かかった、だとか。
臨也は説明を聞くうち、脱力した。
いや、なんというか、予想外というか。

「…ねえ、そこにラブはあるのかい?」

ちょっと、というか、結構だいぶ、泣きたい気分だった。
朝からウキウキしてお菓子を用意した自分は何だったのだろう、とか、どうせコスプレするんだったら俺のしてくれればいいのに!とか。
イベントに全力で挑む姿は可愛いのだが、如何せん恰好が恰好だ。
ねえ、これは可愛いと褒めるべきなの?泣いとくべきなの?怒るべきなの?
ズーンと沈みながら呟く臨也に、帝人は脱いだカボチャを取り壊しながら片手間に答えた。

「ばかですね、愛がなきゃ呼びませんよ。」

続けて「あ、お菓子は下さい。」と告げられ、反射的に手に持っていた紙袋を差し出しながら、臨也は先程帝人が発した言葉を脳裏で反復する。
え、あれ、愛がなきゃ?え?ていうことは、あるって事、で、え?えぇっ?!
理解した途端ぶわわわと赤くなる臨也を横目に見て、帝人はクスリ笑った。
ああ、仮装もしていないし、お決まりの台詞を言われてもいないのに、お菓子をあげちゃったなあ、と。
どこか、くすぐったいような気持ちで。
未だ赤い顔に手で風を送っている臨也を後目に、片付け終わったカボチャを脇に寄せて立ち上がる。

「夕飯、食べて行きますか。」


作品名:Trick or … 作家名:ぎとぎとチキン