愛して、なんか、ない
この想いを気付くこと無く風化できたらと何度思っただろうか。
中学の時よりも短くなった制服のスカートの裾を握りしめる。
どうして気付いちゃったんだろう。
どうしてこのひとなんだろう。
どうして、どうして、
繰り返し理性に投げかけては、返ってこない応えに苦しくなる。
最低なひとだ。
親友を傷つけた酷いひとだ。
僕を騙し、利用し、玩ぶ、最悪の男だ。
(嫌い)(嫌い嫌い)(だいきらい)
赤い目に見つめられるたびに言い聞かせては消えていく呪いの言葉。
僕の心など見透かしてるくせに、何も言わずに嗤うその顔が憎くてたまらない。
そのくせ離れられない自分が一番嫌いで、惨めだった。
「可愛い可愛い帝人くん。俺は君を愛してるよ。恋に怯え、愛を信じきれない臆病な君を、愛してと身体全体で叫ぶくせに、愛さないでと揺らぐ眸を誰よりも愛してる。君が認めようが認めなかろうが、君は俺が好きで俺も君を愛している。俺たちは想い合ってる。繋がってるんだよ、帝人くん」
視界いっぱいに広がる、美しい顔。
揺らぐことの無い眸に映るのは、惨めな自分だけ。
(違います)(僕はあなたのことなんか)(愛してません)
拒絶の言葉すら封じられ、喘ぐ喉を喰い破られる。
ぼろぼろと落ちていく涙を彼は美味しそうに舐めていく。
一粒すら自分のものだと主張するかのように。
浸食する熱は気付きたくもなかった想いを無様に曝け出す。
最低なひと。
酷いひと。
最悪な、男。
(僕は)(ぼくは)(あなたなんか)
作品名:愛して、なんか、ない 作家名:いの