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神谷 夏流
神谷 夏流
novelistID. 17932
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月夜行

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月のない闇――――。

自分の手先も見えないほどの漆黒。
丑三に通りを行くものはなく、家々から洩れる光もない。
時折吹く温い風が竹を揺らしてはザワリと音を立てるのみ。

と、大通りの向こうにぼうっと浮き出る光。
小さく見えた光は近づくにつれ、だんだんと膨らんでくる。
ずりずりと地べたを這うような音、どんどんと土を踏みしめるような音、ごろごろと地を転がるような音。ぐちゃぐちゃ、べちゃべちゃ、色々な音を混ぜこぜにしたモノが大きくなってくる。



通りのこちら側にも光が生まれた。
大きな光よりも随分小さいが、少しだけ赤色を含んだ光。

ずりずり、どんどん、ごろごろ、ぐちゃぐちゃ、べちゃべちゃ。
大きな光が、小さく赤い光の寸手まで近づく。


『オォ…、オヌシハ甘楽』『甘楽…』『甘楽ダ』
大きな一つ目の鬼がぐぐっと顔を寄せてくる。

『随分ト久シイ…』『久シイ…』『久シイナ』
鬼の後ろや股の下で、半分崩れた首だけの女や、足の生えた釜などが囃したてる。

「悪いんだけど道変えてくれる?」

『ソレハナラン』『ナラン…』『ナランゾ』
人の顔をした蛇が不快そうに顔をしかめ、ちろちろ舌を出す。

『コノ先ニアル屋敷ノ姫ヲ喰ライニ行クノダ』『喰ラウ…』『喰ロウテヤル』
ゲヒゲヒ ギャッギャッギャ

『甘楽、共ニ行コウゾ』『行コウ…』『行コウ』
土から生えた白い手が誘うように手招きする。

「人は喰わないよ」

『人ハ美味イゾ』『臓物ヲ喰ロウテヤル…』『ナラ儂ハ目玉ヲ啜ッテヤル』
ゲヒゲヒ ギャッギャッギャ

「そぅ…、道を変える気は無いんだね」


「なら消えろ」













「…帝人君。」
「…。」

外の風をなるべく入れないように、襖を半分だけ開けて、するりと中に入り込んだ。
秋口に入ったばかりだが、部屋の中には火鉢が焚いてある。
襖を隔てた廊下よりも随分暖かい。

冬用の布団に包まった帝人は、目を瞑ったまま呼びかけには反応しなかった。
そっと枕元に座り、火鉢で手を炙った後、半分布団に埋まってしまっている額に触れた。

真っ青だった顔色も、小刻みに震える手足も、一刻前よりは落ち着いている。
下がりすぎた体温も少しずつ戻ってきているようだ。

ほっと息をついて額から手を離し、寝屋の近くに置いていた火鉢の炭をつつく。
ぱちんと赤く焼けた炭がはじけて音を立てた。
「もう大丈夫だからね」


帝人は物の怪の気配に聡い。
とくに百鬼夜行は嫌悪する。
幼少時の記憶がそうさせるのだろう。

屋敷に近いところで出ると、臨也がいくら結界で遮断してもこうやって体調を崩す。
その度、臨也が物の怪の塊を消滅させに出向くのだ。

まったく憎たらしい。
臨也は帝人に害成すものに嫌悪する。


「何も心配せずにおやすみ」
君に害成すものは俺が全部消してあげよう。
君が安心して眠れるように世界を作り直してあげようか。
都ではない地に行ってみるのもいいな。
俺の信仰の強い処であれば、もっと強い力を出すこともできる。
あぁ、都を去るついでにあの男を殺してやろう。
そうすれば帝人君の闇も…

「…臨也さん」

暗い思考が遮断される。

「起きたの?帝人君」
部屋に入ったときから起きていたことは知っていたが、あえて聞いてみる。
…はい。
小さい、くぐもった返事が聞こえた。
まだ布団に顔ごと潜ったまま。

「…手」
手?
ちょっとだけ考えたが、直ぐに思いつく。

また手の平を火鉢で炙って、帝人君の額に乗っけてやれば、まだ青白い頬を少しだけ緩ませた。
子供がこうやって触られることが好きなんだってことは知っていた。
修行の成果を褒めてあげるとき、ぽんぽん撫でてあげると、恥ずかしそうに困ったように眉を寄せるが、振り払われたことは一度もない。

「もう大丈夫だから、安心してお休み」
部屋に入ってきたときと同じ台詞を、もう一度言い聞かせるようにつぶやく。

「…ありがとうございます」
額の手をずらして、頬を包む。
手の暖かさに心から安心したのか、帝人はゆっくり眠りに落ちた。




君の世界を守ってあげよう。ずっとずっとずっと…
作品名:月夜行 作家名:神谷 夏流