【ノマカプAPH】シロツメクサの指輪【日湾】
「ありがとうございます。その時を楽しみにしていますね。」
シロツメクサで作った指輪を渡すと、貴方は微笑んで、形が崩れないようそっとその指にはめてくれました。
「私だけ貰うのは不公平ですからね。」
貴方はそう言いながら、同じようにシロツメクサの小さな指輪を作って、私の指にそっと刺してくれました。
その指輪はおままごとの婚約にふさわしい、すぐ形がなくなってしまう指輪でしたが、私にとってはダイヤモンドの指輪よりもずっと魅力的なものに感じました。
かつて指輪を交換し、幼い言葉で結婚の約束を交わしたことを、貴方は覚えているのでしょうか。
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「あら?台湾さん。いらっしゃい。」
「こんにちは。いきなり来ちゃってごめんなさい。」
「いえ、構いませんよ。どうぞ上がってください。」
畳の敷いてある部屋へと通され、座るように促される。
「こんなものしかありませんでしたが、よければ召し上がってください。」
目の前に高級そうな羊羮を出され、私はそれをゆっくりと味わう。
彼も同じものを、お茶をすすりながら食べる。
「台湾さん、大きくなりましたね。」
「へ?あっ…最近お菓子とかいっぱい食べたら体重が増えちゃって…」
「いえ、そういうことではなく…。これを覚えていますか?」
そう言って日本さんが懐から何かを取り出す。
「これは…。」
懐から出されたそれは、シロツメクサの小さな指輪だった。
「今朝ぽちくんの散歩中にシロツメクサがたくさん咲いている場所を見つけて…懐かしくて作ってしまいました。」
「日本さん…あの…」
「あの頃は貴女も小さかったですし、あのような約束をしましたが…私達は国です。個人的な感情で結婚など出来ません。」
「そう…ですね。」
すこしだけ期待した心に、ヒヤリと冷たい何かが突き刺さった。
「だけど、貴女と私が一緒にお茶とお菓子を食べるくらいは許されるでしょう。もしも貴女が嫌でなければ、昔のようにまたいつでも遊びに来てくださいね。」
「…ハイ。」
お茶をいれかえると言って彼が席を外したすきに、シロツメクサを左手の指へ通す。
薬指は入らなかったから小指に。
その指輪は相変わらずすぐに壊れてしまう儚いものだったけれど、昔と同じように、それは私にとって何よりも魅力的なものに感じた。
【終】
作品名:【ノマカプAPH】シロツメクサの指輪【日湾】 作家名:千草