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泣けないのさびしいのいとしいの

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「正臣、正臣、」
彼女は名前を呼ぶ。俺の、俺だけの名前を呼んで楽しそうに笑って。
さきの顔が近くにあって、俺はあ、と思う。だけど、さきは気にしないで近づいて、数ミリってところでとめる。目を大きく開いたまま動けない俺の頭をごつん、て額を押し付けてみる。そしたらそのままその、いつもまっすぐに俺を見ている眼で俺の目を覗く。公園だった。
「一緒に、ついていってあげようか。」
片手を繋いで一緒に歩いて、たわいのない話をする場所。たわいのないようで、その話の、その言葉のひとつひとつはとても大事なことだった。何ひとつ見逃さないように、こぼさないように俺たちはたくさんの話を真剣に耳を傾けあっていて。
今日の、この一言だって、俺の心は純粋すぎるほど純粋な受け皿で受け取って消化しきれずにいろんな考えをめぐらしたりしてしまう。そこにひとつの名詞が浮かんでいるからだ。俺にとって、大きすぎる彼の名が。そして彼女はあまりにあっけなくその言葉を口に出した。
「臨也さんに会うんでしょ?」
「…そうだよ、ばれてたんだ?」
「うんだって私正臣のことならなんでもわかるもの。」
にひっと彼女は首を傾けて笑った。
「俺は」
「うん」
「俺は、さきが臨也さんにどんな気持ちを抱いててもかまわないよ。」
「うん、そうだね。もう治らないもの。」
「違う。直していくんだよそこは。」
俺は初めて笑った。さきも、少しだけ笑った。桜が舞って、正臣の鼻さきに落ちると、さきはその花びらをそっとつまんで、じゃあ、待ってたらいいんだよね、と確認した。
「正臣がそういうなら、私待ってるよ。」
臨也さんによろしくいっといてね、とさきは言った。正臣はさきの頭の上につのった花びらを払いながらとても愛しい少女を少しばかりか強く抱きしめる。彼女を守りたい。と、切実に願いながら。

**

「さきちゃんは?どうして一緒じゃないのかな。」
「さきにはこの話聞かせたくないんですよ。あんたの命令なんかろくなことじゃないにきまってますから。」
ストン、と椅子の上に座った。
「何を言い出すかと思ったら。まぁ計算の範囲内の答えだからいいや。さきちゃんにはよろしくいっといて。」
書類をばさっと置いた。読める?と言われたので、読めます、成績よかったんで。と答える。英語で書かれたページに目を通していると、臨也の手が俺の顔の、頬のあたりにふれる。
「何すか。」
「花びらが。見える?桜かな。」
俺は目を見開いた。それはあの散歩道でつけた、そしてその動作。口を何か動かそうとする間に臨也がつぶやいて沈黙をやぶってしまう。
「さきちゃんは俺のそういうところもすでに知ってるよ?それでも守ってあげたいの?君は?」
「だから、だからこそ、彼女を遠ざけたいと思うんすよ。こんな暗くて灰色でやさしくない世界から。一緒に暮らして、幸せになってほしい、そういうことから抜けられるなら俺が、て、そうやって願いことの、何がいけない。」
「悪くない。何も。」
はん、と彼は笑った。もう一度復唱する。そして何かを納得したように、君はさきちゃんを心底あいしてるんだね、という。何をいまさら。
臨也は俺の額をぽん、と掌で触れて、そのまま眼を覗き込み、触れるだけキスをして、解放する。あきれるほど、さきにそっくりの動作で離れていく。
何ごともなく仕事の趣旨を俺に説明し、以上、と手をたたいた。
俺を返そうとしたときに、臨也はたまには3人で食事でもしようじゃないか、といったけれど、正臣は答えずにドアをばたんと少し強く閉めた。それだけだった。
さきと臨也は長く一緒にいすぎたのだ。まるで同じところで生まれたかのように同じ癖を同じ生き方を同じ動作を、同じ愛し方をして。
出迎えたさきは笑って、俺も笑った。違うものの区別が、こんなにできなくなるほど、壊れていてもただ一人、彼女を守りたかった。