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「深夜の階段」「見つめ合う」「星座」

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とんとんとん、とリズミカルにアパートの階段をのぼっていく臨也に少し遅れて、帝人はゆっくりと一段ずつ段差をのぼっていく。周囲に広がる闇はずいぶんと濃い。深夜なのだから、当然だ。と、何の前触れもなく、くるりと臨也が振り向いた。その瞳が楽しげに弓なりになっている。嫌な予感がした。
「ねえ、帝人くん。おれのこと、好きでしょ」
果たしてその口から発せられたのは帝人にとって有難くないひとことで。
「なっ、」
声をひきつらせ、足をすべらせそうになった帝人の腕を臨也がさっとつかんだ。少年のからだをとらえたその手は、存外に力強い。
「好きって、言ってよ」
後方に傾いた帝人をひきあげながら、臨也は先ほど口にした言葉をもう一度繰り返した。帝人はその唐突な『お願い』に調子が狂ってバランスを崩したというのに、彼はそんなことには一切お構いなしだ。
「わかってるんでしょう」
ならいいじゃないですか、と小さく告げる声に、臨也は不満げにくちびるをとがらせる。すべてをわかったような顔をして眺めている傍観者のくせに、どうして今更明確な言葉を欲しがるのか。そうではないことを決め付けられれば反論しようものだが、残念ながら彼が言うとおり帝人は彼のことが好きだった。
「ばかだなあ、帝人くんは」
苦笑まじりに、呆れたようにそう言われて、帝人はむっとくちびるをとがらせた。
「おれが言っているのは、あくまで推測に過ぎない。他のことなら推測の答えを対象がその行動で教えてくれて、それを見ているだけで構わないんだけど」
思わせぶりに言葉を切り、臨也がじっと帝人を見つめる。その双眸に星がきらめいている。期待か好奇心か、それとも他の何かか。ちいさなきらめきがまるで星座のように、臨也の双眸に散らばっている。視線は絡まったままほどけない。ほどくことが、できない。ばくばくと鼓動の音が激しく耳の裏で鳴り響く。だからいやだったんだ。後悔するけれど、もう遅い。
「これだけは、君の声で、君の言葉で、聞きたいんだよ」
ほろりと吐息まじりに紡がれた本音に心臓がとまりそうになる。星が降ってきた。そう思うと同時に、乾いた感触が帝人のくちびるを塞いだ。