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「夜の部屋」「予想する」「噂」

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闇に塗りつぶされた部屋の中で、帝人はじっと目をつむっていた。
手のひらがじっとりと汗ばんでいる。室内は別に暑くない。むしろ間近に迫った冬の存在を感じさせるように、頬に触れる空気はひんやりとしていた。それなのに左手だけが汗をかくほど熱くなっている理由はわかっていた。臨也と手を繋いでいるからだ。
手をひかれるまま彼についてきた。帝人を強引に連れてきた彼は、部屋の中に入っても手を離さず、ソファにどすっと腰をおろした。普段より乱暴なしぐさに首をかしげ、しかしかたくなに口を閉ざす彼に話しかけることはできなかった。帝人は、ここへ連れてこられたときと同様、されるがまま、彼のとなりに腰をおろした。
いったいどうしたというのだろう。これからどうするつもりなのだろう。いろいろと予想はしてみるものの、自信をもって答えと言い切れる考えは出てこない。彼は何も教えてくれない。
偽名を使って女性たちを騙したり、裏で糸を引いてカラーギャングに抗争を起こさせたり。この男に関する情報を帝人はそれなりに持っていたが、そのどれもが本人から聞いたものではなくネットや街中で耳にした噂や人伝に聞いた過去など、いまいち信憑性に欠ける。そういう中途半端な情報ばかり与えられても、彼を知ることができたとは感じられず、いっそうそのすがたは靄にかすんでいくばかりだ。臨也が、はあ、と息を吐き出した。しかしやはり、そのかたちのいいくちびるが言葉を紡ぐことはない。
欠けた月は明るくない。
かなしいほどに空腹で、しかし空気を読んでか腹の虫は鳴りをひそめている。何もいえない自分の代わりに、いっそ大合唱してくれれば臨也も我に返るかもしれないのに、と思い、帝人はそっとため息をつく。
まだ好意とも呼べない勘定しか持たない少年には、夜は長すぎるように思えてならなかった。