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僕の唄謡い

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臨也は唄の軌跡を辿るように、電子の世界を移動する。

(ここじゃない。・・・・ここでもない。唄は聞こえるのに、あの子がいない)

唄を聞くのが好きだ。
でもそれ以上に臨也は唄うあの子を見るのが好きだった。
だから、あの子の唄声を聞くと居ても経ってもいられなくなって、唄の軌跡を辿りあの子の元への向かう。


(♪♪~♪・・・)


広がった音の波。
油断すれば飲み込まれる渦の中、愛おしいあの子は臨也の愛する音楽を全身で奏でていた。


(いた!)


見つけた喜びと、音を間近で感じる興奮も相まって、臨也は勢いよく愛し子に飛びついた。


「わあ!?」
「みーくん見っけ!」
「い、臨也さん?・・・もう、びっくりしたぁ」
「ふふ、驚くみーくんも可愛いね」
細い身体に長い腕を巻きつけて抱き締める。臨也の腕にあしらえたようにぴったりと納まる身体は、二人の関係を肯定しているようで、臨也の機嫌はますます上昇する。
いっそ鼻歌でもしそうなほど笑顔な臨也に、大きな眸が見上げてきた。
「臨也さん何か用があったんですか?僕を探してたんでしょう?」
「みーくんが唄ってるの聞こえたから来ただけだよ」
「それだけ?」
「俺には最重要なことなの。でもみーくんなんで、こんな離れたとこで唄ってたの?」
おかげで探すの手間取っちゃったよ。
すりすりと華奢な肩に頭を擦り寄せながら臨也が尋ねれば、帝人は少しだけ気まずそうに眼を逸らした。
「みーくん?」
「・・・・・だって」
ゆらりと動く眸の光。伏せられた瞼に臨也は促すように唇を寄せる。
ぴくり、と震えた身体はそれでも拒絶はしなかった。
「・・・・この前、マスターに曲貰ったんだけど」
「うん、貰ってたね」
臨也もその場に居ていたから知っている。曲を受け取る時の顔も格別なのだ。思い出して一人にやにやしていると帝人に不審げに見られてしまった。いけないいけない。
「それで?」
「・・・・僕、覚え悪いから、うまく唄えないんだ」
ふるりと震える睫毛。完全に顔を伏せてしまった帝人に、これは結構重症だなぁと臨也は抱きしめる腕の力を強くしながら思う。


帝人は臨也や他のボーカロイドよりも目覚めは遅かったけれど、造られたという点では一番初めのボーカロイドだった。最初というよりは試作品だと、帝人自身もそう言っていた。
だから機能や読み込みなどは他のボーカロイドよりも劣る部分もある。それでも補おうと頑張る帝人を臨也は見ていた。帝人と初めて出会った時からずっと。
帝人よりも遥かに調教の行き届いたボーカロイドはたくさん居る。けれど臨也はそのボーカロイド達よりもずっと帝人の唄声を愛している。初めて帝人の唄声を聞いた時から帝人の唄声は臨也の一等として君臨しているのだ。
だから、帝人が悩む様を見て、慰めると同時に(馬鹿だなぁ)とも想うのだ。


「みーくん。俺はみーくんの唄声が大好きだよ。愛してるんだ。みーくんの唄声が無かったらもう生きてらんないぐらい、愛しちゃってるんだ」
楽しい唄も、哀しい唄も、愛の唄も、恋の唄も。
帝人という媒体が奏でるだけで、臨也の機械の心がどうしようもなく震え、居ても経ってもいられなくなる。
「でもね、それ以上に俺はみーくんが唄う姿を見るのがすごくすごく好きなんだ。もう誰にも見せたくないぐらい好きで好きで堪んない。みーくんが悩む気持ちはわかるよ。でもねぇ、俺はそれでもみーくんの唄が好きだから、悩むよりも唄って欲しいよ。ねえ、みーくん唄ってよ。むずかしくても大変でも覚えが悪くてもいいからさ、唄って、みーくん」
ねえと子供のように我儘を言う臨也に、伏せられた顔が静かに上げられた。
眸と眸が交差する。臨也は愛おしい子にもう一度「唄ってよ」と囁く。
ぱちりと瞬く眸。
臨也は笑んだまま待った。
やがて、目元がやんわりと緩み、臨也が愛する音を奏でる唇が綻び、愛おしい子は微笑んだ。


「うん。僕、唄うよ」
だから臨也さん、ずっと聞いていてね。


嬉しくて嬉しくて、臨也は小さな身体をふわりと抱きあげ、その場でくるりくるりと何回も回った。
帝人が「臨也さん目が回る!」と叫んでも止めなかった。だってこんなに楽しくて嬉しい気持ちにさせる帝人が悪いのだ。臨也は全身で喜びを表現する。
「楽しみだなぁ、楽しみだなぁ!みーくんの唄!」
「臨也さんってば・・・・」
仕方がなさそうに、けれどまた笑った帝人のほんのりと紅く色づく頬に唇を寄せて、臨也もまた楽しげに笑った。









(・・・あ、)
(?どうかしたのか、マスター)
(いえ、ただまた臨也さんがみィのとこに居るなぁって思って)
(・・・またかよ。あいつみかにべったりひっつきやがって)
(羨ましいですか静雄さん)
(ば、馬鹿言うな!・・・・羨ましくなんてねぇよ。今はマスターと一緒だからな)
(ふふ、ありがとうございます)
作品名:僕の唄謡い 作家名:いの