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正夢をみていた

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「僕にも静雄さんみたいな力があれば・・いえ、せめて身を守れるぐらいの力があれば、こんな風に絡まれることもないんでしょうけど・・・」
「そうだな、最低限の力はあったほうがいいだろうが・・・ま、お前はそれぐらいでちょうどいいんじゃねぇか?何かあったら俺が守ってやるよ」
「そっ、それが申し訳ないんですよ!それにいつも静雄さんが助けてくれるわけでもないですし」

その言葉を聞いたとき、自分の頭のなかでピキリと小さな音がした。

(いつも俺が助けてくれるわけじゃない?そんなわけねぇ、俺はいつも間に合ってたはずだ)

もしかして自分が夢に見ていない時に被害にあったことがあるのだろうか?
この小さな細い体が、あんな馬鹿どもによって殴られて蹴られて痣を作って血が流れて・・・そう考えると腹の奥が沸騰しそうになる。
ギリ・・と噛みしめた奥歯が軋む音を立てた。
出来る限り力を外へ流そうと、無意味に手を握ったり開いたりを繰り返す。

「・・・俺が見てない時に、誰かにやられたりしたのか」

思ったよりも低い声が出てびっくりした。けど、竜ヶ峰も驚いたのか、元から大きな目をさらに見開いている。
そのまま首を傾げると、短い黒髪がさらりと重力にならって流れた。
細くて白い首筋に目が吸い寄せられる。

「いえ、ないです!大丈夫です。ただその・・・静雄さんは社会人で、働いていて、お仕事も大変でしょうし・・僕は学生で、その・・生活している時間が違うというか」
「今はこうやって一緒にいるじゃねぇか」
「今は、ですよね。たとえば、僕が誰かに捕まって殴られてたりしたとして、その時静雄さんはお仕事だったら来てくれないでしょう?仕方のないことですし、だから僕も力つけなきゃとは思うんですけど、絶対的に埋められない距離ってあるじゃないですか」
「・・・でも、俺はお前のこと助けに行くぞ」
「はい、ありがとうございます。でも無理はしなくていいんですからね?静雄さんのお仕事の邪魔になるのは嫌です」
「わかった。でも助けるからな」

言葉少なに返しながら、俺はムカついてしょうがなかった。
何かに力をぶつけたくて、だけどそれを目の前のこいつにぶつけることもできず、ひたすらうつむいて手を握っては開いてを繰り返すしかない。

(わかってる、こいつは正しい。絶対なんてない、絶対に助ける、なんて詭弁だ。わかってる。わかってる。だけど・・・っ)

俺は助けたいんだ。
こいつを、竜ヶ峰を助けたいんだ。
笑っていてほしい、傷つかないでほしい、俺の知らないどこかで、知らない誰かに傷つけられるなんて許せない。許されない。
この気持ちをなんと呼ぶのかはわかってる。
だけどそれを意識するには、一歩進むには俺にはまだ勇気が足りなかった。

怒りを抑えるために深呼吸を繰り返す。酷くタバコが吸いたかったけど、竜ヶ峰の前ではできるだけ控えたい(煙草って、横にいるやつのほうが危険なんだろ?)
ぐっと握りこんだ拳に、あたたかな感触。
つられるように見てみれば竜ヶ峰の小さくて柔らかな手が、俺の暴力しか生み出さない手にそっと両手で包み込むように触れていた。

「竜ヶ峰・・・?」
「しずおさん、」

あたたかな手の感触、上目遣いの瞳、浮かべられている表情はとても穏やかな笑顔で、怒りのこもっていた体から急に力が抜けた。
丸っこい白いほっぺたが少しだけ赤くなっていて(イチゴ大福みたいで美味そうだ)なんて考えてしまってからは、さらに気まで抜けてきやがる。
ストンと抜け落ちるように、怒りがどっか遠くへ飛んでいったみたいだ。
弧を描く唇から、甘い優しい声が聞こえる。


「・・ありがとう、ございます」


もったいないとは思ったけど、俺は竜ヶ峰の手を振り払う。
そして逃げられる前にぎゅっと抱きしめた。こいつが潰れないように、だけど逃がさないように、精一杯力を調節して抱きしめる。

こんな真っ赤になった泣きそうな顔なんて、竜ヶ峰に見せれるわけねぇだろ。

(ほんとに、こいつが俺のだったらよかったのに)

そんな想いを心の奥に仕舞い込んで。

作品名:正夢をみていた 作家名:ジグ