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正夢をみていた

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そして竜ヶ峰が語り始めた「夢」は、俺がいつも見ていたものと全く同じだった。
車に撥ねられるところから、不良にからまれる、コケて頭を打つ、水浸しになる、など。
ただ、俺の「夢」と違うところは、竜ヶ峰の夢はコケたりという軽いもの以外は必ず「俺に助けられて終わる」ことだった。


「最初は、ただの夢だと思ってんです・・・横断歩道で車にはねられそうになって、そこを静雄さんに助けてもらうんです。声が聞こえて、僕は振り返って、そしたら次の瞬間には僕は静雄さんの腕の中にいて、そこで終わりでした。次の夢も、男の人たちに囲まれて困ってたところに、静雄さんが声をかけてくれて投げ飛ばしてくれる。何度も、何度も、バリエーションは違いましたけど、危ない目にあってそれを静雄さんに助けてもらう夢でした」

うなだれた姿で瞼を半分閉じて、下を向いて話す竜ヶ峰はまるで懺悔をするようだった。
静かに響く高めの声が室内に寒々しく聞こえる。

「だから、実験をしてみたんです」
「・・・実験?」
「えぇ」

そう言って顔をあげると、年には似合わない疲れた笑みを浮かべた。


「本当に夢の通りに、静雄さんは助けに来てくれるのか」


その言葉に、俺は息をつめた。
口の中が乾いてしょうがなかったが、どうすることもできずペロリと唇を舐めた。

「どういう・・意味だ?」
「そのままの意味です・・・まず、僕は危険を回避する実験をしました。コケたり頭を打ったりする夢は静雄さんは出てこなかったので、とりあえず夢に見たシーンに来たところで十分注意することにしました。すると夢とは違って、コケたりしないですんだんです。危険は回避できる・・僕はそれを最初に知りました」
「じゃあ、もしかして・・・」
「はい、僕は回避することができるんです。車も、不良も・・・臨也さんも」


ぐっと拳を握って、竜ヶ峰は大きく息を吐くと、真剣な眼差しでまた口を開いた。


「臨也さんが今日家に来ることは知っていました、そして捕まることも、酷い目に合うことも、でも、静雄さんが助けに来てくれることも、知ってたんです。僕は、この非日常的な出来事を手放したくなくて・・静雄さんに助けてもらえるのが嬉しくて・・・っ、ずっと今まで、静雄さんを、僕は――」


「騙していたんです」


覚悟を決めた顔で、竜ヶ峰が俺に言い放った。
俺はその言葉を聞いて――


「それがどうした」


――安堵した。

笑ってそう告げると、竜ヶ峰は面食らったように睫毛を瞬かせた。
キツイ眼差しだった青みがかった瞳が、あどけなさを取り戻していく。それがたまらなく保護欲を誘った。
小さな丸い頭を抱き寄せると簡単にこちら側へ体が倒れてくる。
竜ヶ峰は状況が分かってないのか、抵抗もせずに抱きしめられてくれた。
できるだけ優しく聞こえるように声音を柔らかくして、体と同じく小さな耳へ流し込んでやる。


「竜ヶ峰、俺も夢を見たんだ・・・お前が、臨也に攫われる夢だ」
「え!?」

驚いてあげようとする顔を、抱きしめる力を強くすることで阻止する。
黒い髪の中にあるつむじに頬をくっつけるようにして抱き込んだ。

「お前は俺に助けられた後は夢で見たのか?」
「いいえ・・僕の夢は、いつも静雄さんに助けられるところで終わっていて・・・今回の夢は、静雄さんが部屋の扉を開けてくれたところまでしか・・・」
「そうか、じゃあ――”その後”は知らないんだな?」

必死になって上ずりそうな声を抑える。
それでも口角が上がるのは止められず、せめて顔を見られないように抱きしめて、でも心臓の音がこれ以上喜びに跳ね上がらないように注意するしかない。

(相手を求めてたのは俺だけじゃない、こいつだって俺を求めてた・・・!)

竜ヶ峰は今「俺を騙していた」罪悪感に満ち溢れている。
なぜなら、俺は「俺が竜ヶ峰を助けに行かない選択」をできたことを竜ヶ峰は知らないからだ。
だから俺は生まれて初めてかもしれない嘘をつく――竜ヶ峰を手に入れるために。


「俺が見た夢はな、俺に助けられたお前は俺に言ってくれるんだ・・・愛してるって、俺のことが好きだって。俺に助けられたくて危ない目にあってみせたんだって、な」
「そ・・れは・・・」
「違うのか?正夢はただの実験だったのか?お前は俺に助けられて嬉しくなかったのか?あの時言ってくれたありがとうは嘘だったのか?」
「そんなことはありません!僕は、ずっと、僕は・・・静雄さんが・・静雄さんを・・・・」
「あぁ」


夢を見なくなったら、それに怯えていた。
そうなってしまったら俺は竜ヶ峰を助けることなんてできないだろう。どこでどんな目にあっているかわからない、そんな状態では。
だけど、もしこんな別々の生活ではなく、同じところに居れたなら。
そりゃ仕事や学校があるから24時間ってわけにはいかねぇ。
けど、帰るところが同じなら?

俺はこいつの傍にいられる大義名分があるなら、俺は夢に頼らないで竜ヶ峰を守ることができるはずだ。
そして竜ヶ峰自身が俺に守られることを、助けられることを望んでいるなら、この力だって制御してみせる。
実際に今日臨也を殺そうとしたときは、竜ヶ峰は俺を止めることができたじゃないか。

だから俺は愛を囁く。


「俺はお前を助けられて嬉しかった・・今までのことだって、今日のことだって全部そうだ」
「・・・っ、しずおさ」
「お前が夢でも俺に告白してくれて舞い上がった。お前に臨也が触れてるって考えたら殺したくて仕方なかった」

胸元の濡れた感触に、俺はそこでようやく竜ヶ峰が泣いていることに気が付いた。
片手で包み込めてしまう頬に触れて、顔を上げてやる。目があった竜ヶ峰はやっぱりその大きな瞳から涙を流していて、指で掬ってもパタパタと零れ落ちてしまう。


「竜ヶ峰、何も心配することないんだ。俺もお前も正夢を見ていたんだから・・・お前は安心して、俺を愛してるって言ってくれ」


お前が罪悪感に満ち溢れているなら、お前の罪を許す。
お前が俺に守られたいなら、お前を守ってやる。
俺の手を取るのが怖いなら、正夢のせいだと言ってやるさ。

(俺がお前を守りたかっただけじゃない・・・お前も俺に守られたかった。なぁ、それって両想いってことだろ?)


「・・・い、して、ます・・・」
「ん?」
「ぁ、い、してます・・・あいして、ます、愛しています、静雄さんをっ、愛してます!僕はっ、静雄さんが・・すき、です」
「あぁ、俺もお前を愛してる。もう・・夢は見なくてもいいな」


俺も、お前も。
もう正夢は見なくて、いい。
作品名:正夢をみていた 作家名:ジグ