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神様のいない日

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「臨也さんは、神様なの。神様が特別に愛する人なんか作るわけないでしょう?だから、臨也さんに特別扱いされているあなたはこの世に居てはいけない存在なのよ?ありえない存在は消さないといけないの。」



だから、ねぇ。死んで?



帝人が学校から帰る途中、人通りが少ない道でいきなり現れた少女はナイフを持ってそう言った。

少女の顔の造形は整っている。
そして、穏やかな表情を携えているから端から見れば普通の美少女に見える。

だが、帝人はその少女の目を見たために、美少女だと思うことはなかった。
少女の目は濁っていた。
臨也の信者が皆一様にそうであるように。

少女は虚ろな目を帝人に向ける。
ナイフが上に掲げられる。
太陽光が反射され帝人の瞳に光が当たる。

眩しい、と帝人が思った瞬間に少女の体が動いた。
帝人に素早く近づいてくる。
自分の体が強張っている。上手く避けられそうにない。
死んでって言ってたし、刺されるのかな。と思う。

怖い。

腕を掴まれ、無理やり後退させられる。
そして、目の前に圧倒的な黒が広がった。

キィン、カシャ

と金属がぶつかる音と何かがアスファルトにぶつかる音が聞こえる。

気付けば、少女のナイフが道路に落ちていた。
目の前の黒色が持っていたナイフで少女のナイフを落下させたのだろう。


「ねぇ、何してるの?」

自分が聞いたことの無いような底冷えのする声が聞こえた。

こんな声で詰問されたら、言葉を紡ぐことが出来ないだろう。
そう帝人は考えた。

だから、少女から出てきた声を聞いて帝人は驚いた。
少女に殺意を宣言された時よりも、実際にナイフを向けられた時よりも、目の前に黒が広がった時よりも。

「臨也さん!!ありえない存在を消そうとしていたんです。これは、臨也さんが完璧なる存在で居ることを阻害していますよね?」

底抜けに明るく少女は言った。


目の前の青年の背中から顔を出して少女を見ると、忠犬がご主人様に褒められるのを待っているような顔をしている。
罪悪感など微塵も感じられない。

自分が「これ」呼ばわりされたことさえ些事だと思える異常な笑顔、声、態度。

帝人は臨也の信者はこれまで遠くからしか見たことは無かったけれど、全員がこの少女のようではなかったと記憶していた。
少女は狂っている。
そして、狂わせたのは間違いなく自分を庇っている目の前の青年だと確信する。

彼女の唯一神なのであろう男は冷たく言い放った。

「君ごときが俺の帝人君を『これ』呼ばわりしないでくれるかな?それと、帝人君はありえない存在なんかじゃない。あと、俺は完璧であったことは無いよ。
だって、全く欠点が無い人間なんているはずないだろう?」

少女の神様は自分が不完全な人間であると公言する。
臨也が少女を信者にさせる時にどういうことを言ったのか、帝人は知らない。
しかし、少女の顔を見ると今臨也が言ったような言葉とは似ても似つかないことを言われていたのだろうと思う。

名も知らない少女は顔を青褪めさせている。
帝人は自分に殺意とナイフを向けた少女に心底同情した。

自分が信じていた…信じさせられていた神様に、自分は神様なんかじゃないと言われた少女。
これから何を信じて生きていけばいいのかわかっていないだろう。

自分が居たからこの黒服に身を包んだ男が神様ではないと知る羽目になってしまったのだろう。

唇を震わせて二の句が告げない少女に少女の元神様は非情な人間の言葉を紡ぐ。

「で、君はいつまでここに居るのかな?」

可哀想な少女は濁りが薄くなった瞳から涙を零した。
恨み言を何も言わずに少女はその場を去って行った。
少女はもう二度と臨也に近付かないだろう、と後姿を眺めながら帝人は思った。

残ったのは少女が持ってきた道に落ちているナイフと臨也と帝人の間の沈黙だけだ。

沈黙を破ったのは、臨也のさっきまでとは似ても似つかない、しかし帝人が聞きなれたいつも通りの声だった。

「怖かったよね。ごめんね。」

本当に心配そうな顔で臨也は帝人に謝った。
守れてよかった、そう言って青年は少年を抱きしめた。
少女に向けていた冷たい目はどこに行ってしまったのか。
違う人物だと言われたならばそれを信じてしまいそうなほどに表情が異なっていた。


帝人は確かに先程恐怖した。怖かった。
怖がったが、少女が向けたナイフや殺意にではなかった。
少女の臨也への想いの重さが伝わってきて、それに負けているんじゃないかと思って怖かったのだ。
自分よりも臨也が好きな人がいるのが嫌で少女が居なくなればいいと思った自分が怖かった。

実際には少女は臨也が人間だと理解して去って行ってしまうほどの想いであったことがわかった。
そして、それに安堵している自分が居ることにも恐怖している。

現在進行形で怖い。
自分の想いの重さが怖い。

「帝人君?大丈夫?」

上から落ちてくる声が心地良い。

好きな人の声はどうしてこうも落ち着くのだろうか。

「帝人君を狙うなんて、あいつどうしてやろうか?帝人君が望むことをしてあげるよ。あいつの人生をどういう風に狂わせたい?」

臨也のせいでもうすでに狂っている少女の人生をもっと狂わせてあげる、と臨也は帝人に甘い声で提案する。

「もう、あの子に構わないで下さい」

「そう?帝人君は優しいんだから」

ぎゅうぎゅう、と臨也は帝人を抱きしめる力を強める。

優しくなんてない。帝人は臨也に異常な想いを抱いていた少女がまた臨也に近付くのが嫌なだけだ。
また何かの間違いで信仰が復活するのが許せないだけだ。

臨也の信者は何人くらい居るのだろうか。
その中で自分よりも臨也を想っている人は居ないのだろうか。

そんな人間が存在するとしたら、許せない。

自分が一番臨也を好きで、愛していて、想っている人間でなければ嫌だ。

そんな想いを自分の中で爆発させた少女の存在は恐怖に値した。


「でも、帝人君が傷付かなかったからあいつに構わないって提案を受け入れるけど、帝人君が傷付いた時には、俺は自重なんかしないからね?全力で、俺の持てる力を全部使ってその人間を壊してあげる」


帝人の想いは異常に重い。
だが、帝人の想い人の帝人に対する想いはそれ以上に異常に重い。
帝人の恐怖の原因がわかったら歓喜するまでに。

きっと似たもの同士なのだと帝人は思う。
相思相愛、結構じゃないか。

神様に誓う愛なんて無いから目の前の人間に愛を誓おう。
きっと永遠に自分を愛してくれるだろう紛う方無き人間に。



少女には神様がいた。
神様は絶対的な存在だった。
今日という日が来るまでは。
作品名:神様のいない日 作家名:彼方