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いつも二人で

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――サ―…
 雨の音で、アキラは目覚めた。
「……っ」
 覚醒と共に、下半身に不快感を感じる。がばっと身を起こして布団をめくってみると、自分のズボンが濡れており、そこを中心にシーツに丸く染みが出来ている。
「また…」
 思わずアキラは呟いた。ここ数日で何度目かの失敗。
 以前はほとんどなかったが、トシマに来てイグラに参加してから気の休まる時がなく、その心理状態がオネショにつながっていた。
「もとみ…」
 隣で寝ているはずの男の名前を呼ぶ。しかし返事はない。彼が寝ていたあたりを触ってみると、そこに体温は残っていなかった。
「源泉…?」
 急激に不安に襲われ、ベッドから降りる。部屋中を源泉を求めて探しまわったが、彼の姿はどこにもなかった。
「源泉…っ」
 薄暗い部屋の真ん中で、心細さのあまりアキラは泣きだしてしまった。
「う…、ひぃっく…」
 このままもし彼が戻って来なかったら――また自分は一人ぼっちになってしまう。
 孤児院を飛び出してからずっと独りで生きてきたが、人の体温の温かみを知ってしまった今、また独りになるのはあまりにも辛すぎる。
「源泉ぃ…」
 泣きじゃくりながら名を呼んだその時。
 カチャ、と音がして入り口のドアが開いた。
「――ん、…どうした、アキラ」
 聞き慣れた声にアキラが顔を上げると。心配げな源泉の顔がそこにあった。
「もとみ…っ」
 泣きながらアキラは源泉の首に抱きついた。
「おいおい、一体どうした……ん?」
 アキラの身体を両手で受け止めながら、足のあたりに温かいものを感じた源泉が下を見ると、足元には水たまりが出来ていた。
 
 
「ほら、飲め。あったまるぞ」
「……」
 二人でシャワーを浴びて、着替えてさっぱりした後、源泉はアキラにホットミルクを作ってやった。
 アキラはまだ少しぐずっていたが、ミルクを口にすると、少し落ち着いたようだった。
「急に呼び出しが入ったもんでな。お前よく寝てたから、何も言わずに出て悪かったな。怖かったろ」
 そう言ってアキラの頭に手を置く。
 アキラはぐすん、と鼻を鳴らして、
「もう…帰って来ないかと思って…怖かった…」
 涙声でそう言った。
「よしよし。ごめんな」
 源泉はそう言うと、優しくアキラを抱き寄せた。
 
 
「ごめん…なさい」
「まあ、しょうがねえよな。今日は床で寝るとするか」
 濡れたベッドを前に、源泉は頭をぼりぼりと掻いた。
「なんか…俺…ごめん」
 オネショをして、独りにされて泣いて、さらに安心しておもらしをしてしまったことで、今更ながらアキラは恥ずかしさで顔を赤らめた。
「ホントに手のかかるお子ちゃまだな。これだから目が離せねえ」
 そう言って源泉はアキラの額にキスをした。
「さあ、寝るぞ」
「…うん」
 二人でシーツにくるまって、ベッドに凭れて目を閉じた。
 さっきまでは不安を煽っていた雨の音が、今は優しく耳に響いていた。
 
 二人なら、生きていける。二人でなら。
 心地よい体温を感じながら、アキラは眠りに吸いこまれていった。
作品名:いつも二人で 作家名:小川藍李