夏の終わりに始まる
健二の言葉に頬を染め、おだやかな表情で夏樹が言った。そこに、青い春の雰囲気をぶち壊す蛮声が響く。
「お……お前らああぁ!」
「なによ翔太、健二君に妬いたの?」
「ばっ、ちげぇよ! 俺はっ」
言いかけたところで家族達から笑いが起きる。それに圧倒されて次の言葉が出ないどころか動けなくなった。
少し冷静になった頭で、勢い任せに口走りそうになった事を考え直した。
――俺は今、何言おうとした? どっちに……妬いたんだ?
「……っ!」
「翔太?」
「っせぇよ!」
直美が止めるのも聞かず庭を離れる。家族も笑いが落ち着いたところで、れぞれの役割に散り散りになるが、健二は翔太の後を追った。陣内家の者ではない健二は準備を手伝ったくらいで、仕事を与えられていなくてよかったと思った。
「翔太兄……?」
「んだよ、笑いに来たか?」
「ちがっ」
「冗談だ。お前がそんなやつじゃない事くらい分かってる」
「……翔太兄、どうかした? 僕、何か気に障ること言った?」
健二は鈍感なようで意外と聡い。自分がとった行動に非があっただろうか、と顔を悲しげに歪めた。
自分のことを心配してこんな表情をしたかと思うと、先程までの苛立ちが嘘みたいに引いていく。
「っわ、翔太兄、なにを……!」
「はははは」
少しクセのある柔らかい髪をぐしゃぐしゃにかき回すとにかっと笑う。そんな翔太につられるようにして健二も笑った。