感情
――娘も、このくらいの年頃だったか……。
その写真を見つめながら少し感傷に浸る。契約者に性別も年齢も関係ないが、子どもを軍人に仕立て上げ人殺しをさせる事には心が痛む。
それを顔には出さず、受け入れる準備とMEの手配を部下に急がせた。
「名は?」
「……ターニャ」
「お前はこれから契約者として私の部下になる。家族や友人たちからお前の記憶は消される。いいな」
ターニャと名乗った少女はこくりと頷いて肯定を示した。感情のない表情にレプニーンは、やはり契約者なのだと実感する。
「しばらくは訓練に従事してもらう。人手が足らんのだから、早く使い物になるようになってくれ」
言って部下と共に下がらせる。今夜中に彼女を知るものは居なくなるだろう。慣れたことではあるが、今回は少し寂しく思えた。
「……どうかしているな、私は」
自嘲する声が、静かな執務室に響いた。
BK201がロシアを離れたと連絡があったのは、負傷したターニャが連れ戻されたすぐ後だった。
レプニーンは連れて行く部下の中にターニャも入れるようにした。
「お前は顔を見知っているから連れて行くぞ」
「はい」
「……帽子がずれている」
思わず伸ばした手が、躊躇って止まる。その手を下げる方がおかしくて、帽子の向きを正してやった。ターニャは少し驚いたようにレプニーンを見上げていた。
「さぁ、行くぞ」
「……はい」
彼女の他に数人の部下を連れて歩いていく。後ろを歩くターニャは、どこか優しげな手つきで帽子を撫でた。