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あいことば

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 ポーズがあった方がいい、と私が言いだした流れで、合い言葉を考える事になった。
 赤い夜を戦い生き抜くための信念。草壁先輩のその言葉で炎に揺らぐ過去が見えた気がして、私の口はひとりでに動いていた。

「ファー・ド・セーテ・オ・フレッセ、エン・トーラー……」

 小さく呟いただけの言葉に、草壁先輩は気付いたらしい。

「日本語に直すと、『友と、明日のために』って意味です……」

 菊理先輩はスケッチブックに『素敵な言葉』と書き、草壁先輩は「前向きでいい」と言った。ゆか先輩が嬉しそうにはしゃいで、駆先輩や菊理先輩と言葉を交わしている。

「……! この言葉は元々戦意高揚のために使われていた言葉なので、手に持った武器を打ち合わせるか、もしくは拳を突き合わせながら言うものなんです」

 つい早口に言って、私は拳を突き出した。無意識にとはいえ自分でも少し驚いている。

「こういう事か?」

 すっと草壁先輩が手袋に包まれた拳を突き合わせてくれた。続いて菊理先輩とゆか先輩が拳を出して言葉を呟いた。

「……友と明日のために」

 私ももう一度言う。
 駆先輩も草壁先輩につつかれて同じようにしてくれた。なんだか恥ずかしそうだ。

 今のこの繋がりを、失いたくない。
 あの時のように、手放したくない。

 心の底に少し温かみが灯った、そんな土曜日の午後。
作品名:あいことば 作家名:千砂