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歪な王冠

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この国には次期王位を授かる身の上にして、自室から滅多に姿を現さない王子がいる。だが祭典さえも殆どお決まりのご気分による理由で席を空けるも、何処からか圧力が掛かり、公に取り立てる扱いにはなり得ない。

自分の一族は、王が国の政を滞りなく行うことへの補佐を果たして国の安寧を守る、という役目を担っている。ので、次代を継ぐ己は特に無関心ではいられない事項である。
これは何かしら事情があるのかなあと、普段はあまり探らない領域の情報まで収集してみた。すると、様々な噂が詰まっている。
一例では王子は大変ご尊顔が麗しく、懸想した召使が嫉妬のあまり顔を傷付けたらしいという。別の説は王家にかけられた呪いが遂に発現し、人前に出ることが出来ないのだとか。
まともな種から突拍子ない類まで揃うも、果たして真実は如何なることかと好奇心が疼いては、件の王子の自室の前を通り過ぎる回数が増えた。そうして確率の問題であろう、予期していなかった出会いが訪れる。


笑うなよ?

神経が通っている証拠にひくひくとした仕草で動く猫耳は、漆黒の髪色とお揃いの艶やかな濡れ羽色。
そう、染み一つない美貌の王子の耳は猫の耳。お互い半笑いしつつ顔を引きつってしまった。
やはり王宮の底なんてものは、容易に辿り着けやしない。王位を継承したら、あの呪いが発現することを考慮して設計された王冠を被って表に出るよと言う王子の言葉に、そんな由縁であの形状だったんですねえと納得する。



「よし決めた。王子の権限をもって、俺付きの相談役に指名するからね。手元に置いていた方が安心出来るし、不敬罪あたりではねられるよりはいいでしょ」
「選ばせる気、更々ないじゃないですか」
うん、そうだねと王子は頷く。すると一緒にへたれる猫耳。喉元に耳を寄せれば、喉を鳴らす音が聴こえてきそうである。
こんな感じの王子が眼前に実在していることに、改めて温い表情が自然に浮かぶ。付き合いが永くなりそうであるのにすごくシュールで、慣れる難易度は高そうだが。

まずは是非ともその耳を触らせて欲しいなと思うも、どちらにしても無関係ではいられないようなので、機会は余る程あるのだろう。
作品名:歪な王冠 作家名:じゃく