はっぴーはろうぃん
伊月の声が、小さな部室に響いた。
「もう少しだっての。もーちょい待ってろ、だアホ。」
日向は、ペンを動かしながらそういう。日誌を書く手は止めずちらっと見たそちらには、伊月のいかにも拗ねたような顔があった。
今日は、どうしても伊月に先に帰られる訳にはいかない。
でも、一緒に帰れたとしてもこれをどうやって渡すか。
ポケットのなかにある小さなそれを触りながら、日向はそう思った。
あーこんなこと考えながら書いてるから遅いんだ、なんて心の中でつぶやく。
「今日は何の日でしょーか?」
そんなことを考えていたから、伊月の突然の質問に答えられなかった。
「は?」
思わずそういってしまうと、伊月があきれた顔でため息をつく。
「トリックオアトリート」
いきなりそういわれて戸惑って困っている日向の顔を見て、伊月は悪戯が成功した子供みたいに笑った。
「お菓子なんかもってねーよな。悪戯してやる。」
伊月がそういって日向のメガネに手をかけたとき、
「ほらよ。」
日向はそういってさっきどう渡そうかとずっと考えていたそれを伊月の手に乗せた。
「え・・・?」
伊月の目に、驚きの色が浮かぶ。
その表情を見て、今度は日向が悪戯の成功した子供のように笑う番だった。
伊月の手に乗っているのは、顔の形にくりぬいてあるカボチャやら、お化けやら魔女やらが描いてある小さなかわいい袋で―
「お菓子がほしかったんだろ。」
「・・・っ。」
そういったら伊月は黙ってうつむいてしまった。
少しの沈黙の後、伊月が小さな声でつぶやいた言葉は。
「・・・バカ日向・・・。」
「っせーだアホ。」
―ったく嬉しいくせに。素直じゃねーな。
―ヤバい、超嬉しい。