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tusanne/かんだ
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novelistID. 18265
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のたくってさぁ死ね

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…ぴちゃん、ぴちゃん、ぴちゃん、足元をじわじわ濡らしていくのは一体誰の血か。肌にまとわりつくような、じめっとした怨念のような重たい空気が肌を撫でては去っていく。背中がぴりっとあわ立つ感覚。腐った落ち葉を踏み締める音。一歩踏み出すごとにゆっくり水分が染み出してくるのがよく解る。首筋に誰かの息がかかったような気がして思わず振り返った。

「……!」

 …山特有の湿った空気に、つんと鼻腔をくすぐる腥いどろどろした死臭が混ざる。嗅ぎ慣れた、イキモノが息絶える臭いの筈が、今日はやけにキツく漂っている気がした。
…いや、オレとしたことが何にブルっているんだ。にんげんをいっぴきころしたくらいで?
 今までオレが喰い殺して来た人間だったものどもと大江幹孝とでどんな違いがあるっていうんだ。どうしてオレが動揺しなければならない?
絶望と驚愕と諦観と戦慄と、負の感情を全部全部一緒くたにしてまとめて浴びせかけられたような、あの血の気の引くような表情。死の直前までオレを殺そうとしていたとは到底思えないような。何がアイツをそこまで貶めたのだろう。オレはそれほどまでにあの人を絶望、させたのだろうか。

「きえろよ…」

 おかしいだろ。確かに大江幹孝を討ったのに。尊也が憎悪してやまない男。尊也が俺に殺してほしいとまで頼んだ男。なのに、どうしてオレは囚われている?あの瞬間、幹孝が絶命する最期の一瞬、躊躇いはしなかった。アイツを殺らなきゃこっちが殺られていた。遅かれ早かれ幹孝を殺す手筈を整えるつもりだったんだ、丁度良かった。尊也の為なら手段を選ばないと決めていたから、身体だって捧げてやった。幹孝が望む、望まないに関わらず、アイツに取り入ろうと何でもやった。それこそなんだって、だ…。人間をやめたくらいなんともない。
――そう、すべては尊也の為に…

「は、はは…、は、はははははははははははははははははははは!!!!!そうだ、そうだよ、何を怖気づく必要があるってんだ!!!尊也のために、そうだよオレは尊也のためならなんだってやってやるんだ!!!!!!発情期の雌犬みたく這い蹲って肉塊を強請ったさ!!!喰い千切りたいのを我慢して我慢して何度奉仕してやったことか!!!ひぃひぃ泣き喚いてアイツから与えられる快楽を貪って!!!!!だが惨めだとは思わねぇ!!!!!ぜんぶぜんぶぜんっぶ!!!すべて尊也のためなんだからなぁ!!!!!」

 諦め悪く額に伝い落ちる汗を乱暴に拭う。いくらここが山の中とはいえ、真夏だ。それにしたって尋常じゃないほどの汗。握った拳は汗で滑り、だらだらと止め処無く流れるから、目に染みてしょうがない。

「クソが…膝までがくがくしてきやがった…畜生」

 悔し紛れに右足で地面を蹴飛ばす。がつんがつんと、何度も、何度も。舞い上がる落ち葉にまぎれて、まるで血が溢れるが如く鮮やかに、曼珠沙華がひとつ花開いていた。狂い咲きの曼珠沙華だ。赤赤と塗れたようにひらめく花びらがあまりにも肉々しくて、思わず目を背けたい程だった。見事なまでに咲き誇った曼珠沙華が、飛び散ったアイツの血飛沫に見えて、消える訳も無いのに頭を振った。網膜にべったりとへばりついて、きっと一生剥がすことのできない光景。オレが始末したくせに。オレが計画してオレが死に追い遣ったくせに。オレから近付いたくせに。

「きえろ」

 頭の奥が金切り声を上げてきんきんと叫ぶ。生憎と耳に入ってはこないけれど、誰かの悲鳴に耳を傾けることはこれまでもこれからもきっと一生無いだろう。

「消えてくれよたのむから」

 幹孝は本望だろうか。一生苦しめばいいと思っているだろうか。人間をやめてしまったとかいうちんけな罪悪感や、殺人を犯したとかいう安っぽい罪の意識なんかではない。心臓の奥、一番深いところにあるぐちゃぐちゃしたものを一生表に出すことなく葬り去った罪で。がくん、力の入らなくなった足が、膝から一気に崩れ落ちた。

「ああああああああああああああああ…っ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 いや、オレは間違っていない。あの時、現人とオレを呼ぶ声を振り切って止めを刺した瞬間から、オレは二度と人間には戻れなくなった。そんなものに執着する気は毛頭無かったが、僅かに残った最期の理性がか細い声で制止するのをオレは躊躇い無くぶったぎった。どうすればよかった?ここまで来て、まさかお前に足を引っ張られるとは思わなかった。今までオレのしてきたことを全否定するなんてな、自分自身に呆れる。がたがたと震えるのは一体なんなんだろうか。振り返ってはいけない。おかしくなる。わかっているのになぜ踏み込んだ。尊也に。幹孝に。

「は、…今なら素直に抱かれてやるよ、旦那ァ」

 勢いよく曼珠沙華を引っこ抜き、立ち上がったその足でぐしゃぐしゃに踏み潰す。感傷に浸る暇も与えないように。情をすべて消し去るように、曼珠沙華のその儚い命を葬り去った。もう二度と立ち上がれない様に。立ち上がろうとする意思も勇気も力も全部踏み躙った。

「お別れだ。一生ここで指でもしゃぶって蹲ッてろクソ野郎」

 ざくざくと歩き出す。そろそろ日が沈む頃だろうか、空が赤い。ふと後ろを振り返ると、うち捨てられた曼珠沙華が目に入る。さっきまでの凛とした姿が嘘の様に静まり返っている。あっち側へもう少し進むと崖だ。あそこっから落ちたとしたら、おんなじとこに逝けんのかな。まぁ死んだってお断りだが。わざわざ自殺すっくらいならアンタに殺されてやるよ、なぁ旦那。

「のたくって死ね、 」