ミショウ、青い二十六時
はあ。ああ溜息つくたびに幸福が逃げて行くって本当ですよ。プライベートじゃ、雅ちゃんはイライラしてるし、妻(戸籍上)は離婚届にハンコ押してくれないし、ホントイヤンなっちゃうのよねぇ…。ぼくだって、かつては捜査一課でバリバリやって、ゴリゴリと犯人を押して押して逮捕しちゃったりしたわたしも、定年迎えた今は穏やかな日々が送りたいわけですよ。なのに、ねえ。
というわけで、さっさと退社して雅ちゃんとデートしてイチャイチャして癒されたかったけど、報告書を書かなきゃいけないのよね。ぼく、係長だから。ここんとこ事件が続いて、あっちこっちに借り出されてたもんで、たまっちゃってたまっちゃって。えーと、犯人わかっちゃったんですけど…ってアレか事件解決してるんだから当たり前か。犯人は××で、トリックは○○で、証拠は以下略。あとは、ハンコを押しておしまいっちんぐせんせい。
あれ、ハンコどこだっけ。ハンコハンコ…。あ、瀬文君が使ったままじゃないの。片付けはちゃんとしてよね。瀬文君て几帳面に見えてこういうところがダメだなあ。そもそも勝手に上司のハンコを逮捕状請求に使ったりしたら、本来なら懲戒ものだよ、マァジィでぇ。公文書偽造で、逮捕しちゃうゾ?
それにしてももう日付変わっちゃったよ。この部屋、夜になると何かの気配がするんだよね…。いや二係みたいに、ここで人が刺されたとかそういうことはないんだけど、なぁんかいわくありそうなんだな。倉庫を片付けただけでだし。いやいや、なんか当麻君も瀬文君もなんかいるって言ってたような。現実的にかんがえて、イニシャルGか、あるいはネズミか。二択……。しかしこの音、過去の犯歴を鑑みて、いただきました!(これ当麻君の真似ね、似てない?)
花も嵐も酸いも甘いも殉職も踏み越えて、今、警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係係長・野々村光太郎は伊達じゃぁない! かかってきなさい、さぁさぁさ…!
うぎゃああ、麗しの柿ピーに隠れるなんて。おまえなんかミショウ特製ゴ○ジェットプラスぅを乱射してやるう。おお、飛んだ! おまえ、SPEC持ちだったのか…! 黒い瞬間異動! しかし、ここであったが三年目の浮気、ここで逃がしてやるもんか。成敗してやるぅ、おりゃ、こりゃッ、ああ…、血糖値が下がるぅってさっき注射したからだいじょぶか。あ、雅ちゃんの写真が手を振って投げキッス。せめて、ダイイングメッセージを、はんにんは、G――。
「何やってんすか、係長」
作品名:ミショウ、青い二十六時 作家名:松**