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お菓子が無いなら

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「珍しいね。どうしたのさ」
「何がだ」
「いや、この状況が」
 そう言って、隣で何故かぼくと同じようにベッドの淵に腰掛けているダークを見る。ダークもこっちを見てくれたので、ダークと目が合う形になる。
「変なのか?」
「いや、だって……ここぼくのベッドだしさ」
 ついさっき部屋から戻ってきたダークは、何故か部屋に戻ってくるなり椅子でも自分のベッドでもなく、何故かぼくのベッドに座った。
 ダークが部屋から戻ってきた時、ぼくは特に何かをしていたというわけでもないが、自分のベッドの淵に腰掛けていたので、ダークがその隣に座ってきたということは、何かぼくに用がある、と考えるのが妥当だろう。
 しかし何かしてくるどころか、ダークは何も言ってこない。何にも用がないのに他人のベッドに、しかも既にそのベッドを使っている人間が居る隣に座ってくるようなことは、流石のダークもしないはずだ。
「なにかあった?」
「一応、あった。……リンク」
「ん?」
 ダークが立ち上がり、ぼくの前に立つ。ダークが立っている一方でぼくは座っているので、ダークがぼくを見下ろすような形になっている。更にぽん、と肩に手を置かれた。
 何をするのか、何をされるのか分からないので首を傾げようとした途端に、ぼくの視界が大きく上に傾いた。
 目の前に移っていたものが自分を見下ろすダークの姿から、白い天井と電球に変わる。それと背中にふわふわとした柔らかい感触がしたので、それらの情報からぼくはついさっき、ダークに押し倒されたということがわかった。
 視界に移るものが、白い天井と電球以外に更にもう一つ増える。ダークだ。ダークがベッドに横たわるぼくの上に、馬乗りになっている。
 無理矢理ダークに押し倒された。更に横たわるぼくの上にダークが馬乗りになっている。表情はいつもの無表情。何かに困っていたり、何かに喜んでいる様子もない。――今得られる情報から、更にダークが何をするつもりなのかというのを推測してみた。
 真っ先に弾き出された答えは、とても昼間に話すような内容ではないもの。
「……何してるの?」
「ん」
「まだ昼だよ?」
 恐らく今自分がしていることと、昼という単語が上手く結びつかないのだろう。かくんとダークが首を傾げて、そのまま考え込んでしまった。
「えーと……お菓子、くれなきゃ……いたずらをする、ぞ?」
「へ?」
 この状況下で何故その言葉が出てくるかさっぱり分からないので、思わずそう聞き返してしまう。
「……菓子をくれないならいたずらをする」
「君そんなに食い意地張った魔物じゃないよね」
「そういうものだって、教えてもらっただけだ」
 露骨に顔を顰める。一体誰がダークにそんな迷惑なことを吹き込んだのか。あとでその誰かに殴りかかりに行きたいくらいだ。
 そしてその言葉から察するに、お菓子がなかった場合の「いたずら」とは恐らく、
「ないのか? 菓子」
「今は持ってないけどさ……」
「じゃあ、いたずら」
 その言葉が耳に届いたと同時に、視界から天井と電球の白が消える。消えた白の代わりに焦点が合わなくなるほどダークの顔が近付いて、そのまま唇を奪われた。
 やっぱりか、と心の中で悪態を吐く。お菓子を持っていなかった場合のいたずらとは、先ほどぼくがダークに押し倒されてすぐ、これから何をされるか考えた末に弾き出した答えと、同じもの。
 押し付けられていた唇を離されれば、甘いキャンディでも舐めるかのように唇を舐められ、舐められた後に軽く啄ばまれた。
 その後にもう一度唇を押し付けられた。ダークの唇はマシュマロみたいに柔らかくはなく、僅かな硬さと湿り気を持っている。
 嫌だと叫ぶ為に口を開こうとすれば、そこに舌が入り込んでくる。口の中を這い回る舌を押し返そうと必死になれば、その舌を絡め取られる。甘くない。全然甘くなんかない。ビターチョコレートのほうがずっとずっと甘いくらいだ。
「……っは」
 目の前が霞むくらい口の中を荒らされた頃、やっと唇を開放され、すぐに混ざり合った唾液を飲み込み、酸素を取り込むために大きく息を吸う。手を押さえつけられたままなので、口を拭うことが出来ず、だらしなく口から飲み込みきれなかった唾液が頬を伝う。頬を伝う唾液がシーツにしみを作る直前で、ダークがそれを舐め取ってくる。
 掴まれていた手が片方だけ開放される。ダークが手を離したのだ。ただ、ぼくの手を離した手が、そのままぼくの服の中に入り、体をまさぐる。
「ちょ、ちょっとまって! ……やめてってば」
「?」
 ダークが手を止め、首をかしげている。その間に空いた手でダークの体を押し返そうと必死にもがくけれど、上手く力が入らなかった。
「だからやめてよ……お菓子なら後でいくらでも作ってあげるからさ」
「いらない」
「いらないって……じゃあなんでこんなの聞いたの」
「お菓子は欲しくない。お菓子を持っていないお前にいたずらとして、こういうことが出来るなら、おれはいたずらの方がいいが」
「ばっ……ばか! いたずらはそういう意味じゃない! もっとこう、ええと、くすぐったりとか……!」
「こうか?」
 服の中に入っていたままだった手がわき腹に回り、さっきのように体をまさぐるのではなく、子供みたいにわき腹をくすぐってくる。くすぐりに一番弱いのがわき腹だと、ダークは知っているのだ。
「く、くすぐった……やめっ……だからそういう意味でもなくて! ……ああ、もう!」
 渾身の力を込めて左足を振り上げ、ダークに向かって蹴りを一発お見舞いする。
 蹴りは綺麗にダークの顔面に命中し、その勢いでダークが後ろに倒れた。急いで半身を起こし、乱れた服を整える。
「痛いな」
 むくりと、倒れこんだダークも半身を起こす。
「うるさい、痛くて当然だ! 吹き込んだ誰かも誰かだけど、こんなことするダークもダークだからね!」
「お前は、嫌だったか?」
 体を起こしたダークがずい、と顔を近づけてくる。またキスされるんじゃないかと思って思わず身構えたけれど、本当に顔を近づけてきただけで、何もされなかった。
「いきなりこんなことされて、嫌じゃないって思う人なんているわけないだろ……!」
 でも、本当にもうしてこないとは限らない。そう思ってダークの顔を押し返そうと肩を掴めば、その上から腕を掴まれる。
「おれは、好きだな。お前が好きだからこうするのも好きだ。いたずらの方がいい」
「だからっていきなりそういうことしていい理由にはならないよ。……手を離して」
「わかった、離す。でも最後に一回だけ、キスがしたい」
 さっきよりもさらに近く、吐息がかかるほどの距離にダークの顔がある。あえて口には出さないで掴まれたままの手を振りほどこうと少しだけもがくことで、抵抗の意を示してみるけれど、手は振りほどけなかった上に、その意思は伝わったようには見えないので、結局意味のない行動だった。
「キスしないと、離してくれない?」
 やんわりとそう聞いてみる。真顔でダークが頷いた。
「このわがまま、どこで覚えたのかな……教えてないのに」
「?」
「こっちの話。……嘘じゃないなら、一回だけしてもいいけどさ」
「ああ、嘘じゃない。……いいんだな?」
「いいよ。一回だけ、ね」
作品名:お菓子が無いなら 作家名:高条時雨