二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
長谷川桐子
長谷川桐子
novelistID. 12267
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

しろい世界でひとり

INDEX|1ページ/1ページ|

 
めずらしく霧がたちこめた早天の池袋の街は、別の世界のようだった。白くけぶった視界にまるで水の底のようだ、と譬えてぼんやりと空を見る。日常と異なる景色にふと、彼が目を輝かせる様が思い浮かんだ。自動販売機やポストが飛ぶ様を、きらきらした目で見つめていたこどもは、きっとこんな街の様子にも感情を高ぶらせただろうと。……勝手な想像だ。ほんとうのところはわからない。訊ねることも、もはや―――

陸橋の階段上る足音がカンカン、とやたら響いて気に障る。橋の下を走る緑の電車の探照灯が時折眩しくひかった。ミルクの底のような、こんな霧の日でも走るものなのだな、と少し感心しながら、上りきった階段から橋の上へと足を向けたとき。視界を掠めたのは小さな人影。

白く塗りつぶされた視界では、おぼろげな輪郭線しか視覚できない。けれど予感があった。

「みかど」

名を呼べばその人影はくるりと踵を返した。

「帝人」

予感が確信に変わる。橋を蹴る。その名を叫びながら橋の上を駆け抜けた。段を二三個抜かしながら、転げるような勢いで階段を下りる。


「……居ねえ」

足が速いとは言いがたい、あのこどもがあの距離で逃げ切れるとは思えなかったが、その姿はしろい闇に紛れて気配すら掴めない。まるで幻のように。むしろ最初から居なかったかのように。掴み損ねた手のひらをぎゅうと握り締めて。しろい世界でひとり、男はうなだれた。
作品名:しろい世界でひとり 作家名:長谷川桐子