ついてるんです
綱吉はボンゴレのドンだ。そしてそれと同時にマルコッティと言うシチリアの貴族の当主でもある。先代である九代目から受け継いだものは莫大な財産であり、それを維持するにもまた偉大な金額がかかる。
さらに、貴族としての付き合いもある。今はまだ九代目が健在であるのである程度は引き受けてもらっているのだが、徐々に綱吉にもその比重が移りつつある。
そんな綱吉の一つの仕事に、オークションへの参加と言うものがある。チャリティーのような健全なものから、人や武器と言った後ろ暗いものまで、扱うものは種類は多岐にわたる。
その中でも綱吉が一番嫌がるのは、いわゆる「曰く憑きのもの」ばかりを取り扱ったオークションだ。
髪の伸びる人形や夜な夜な動き回るくるみ割り人形なんて言うものは可愛いもので、持ち主を次々と鬼籍送りにする呪われた宝石や生き血を啜る絵画など、ろくでもないものも多い。
もちろんほとんどが噂の域を出ないものであったり、偽物であったりするのだが、中にはシャレにならないものもある。また、どこから流出るするのか、門外不出のはずの指輪が出て来ることもあるので、綱吉やロンシャン、ディーノをはじめとする裏社会に顔の効く――もしくは住人――が参加しないわけにはいかないのだ。
「沢田ちゃ~~ん」
「ツナ~~」
「なんですか二人とも…」
VIP用の席でパラパラと本日の出展目録に目を通していた綱吉のところに、ロンシャンとディーノがやって来た。護衛として同行した笹川も首をかしげる。
「なんなの、二人とも…」
何処かげんなりとした態度で綱吉が答える。その顔には「帰りたい」とでかでかと書かれていた。
そんな綱吉に、同じく帰りたいと言う態度を崩さないロンシャンがすがりつく。
「沢田ちゃん、気になるものはどれ?!」
本日のオークションではすでに事前見学で――VIPは事前に出展物が見れる――指輪がない事はわかっている。わかっているのだが、付き合いというものがあるので、適当に落札しないといけないのだ。
もちろん毎回毎回落札する必要はないのだが、どうやらロンシャンとディーノは今回は落札しないとまずいらしい。
「なんでも好きなの落札しなよ」
オレに聞くな。と言う綱吉にロンシャンはブンブンと首を振る。
「そんな事言わないでよ!沢田ちゃんとバッティングするの待ってたんだから!!」
見捨てないで!と、大げさなほど縋りつくロンシャンの後ろで、兄弟子もコクコクとうなずいていた。
「ディーノさんまで…」
いったい何なんだ。と言う綱吉に、ディーノは豪奢な金髪をぼりぼりと無造作にかき混ぜながらため息をつく。
「いやぁな、トマゾも俺も痛い目を見たことがあるわけで」
因果な商売をしているとは自覚している。しているが、抗争で死ぬならまだしも呪いだのなんだかよくわからない力で死ぬのは勘弁してほしいと言うのが本音だ。
「だからってなんでオレに聞くんですか」
オレには分かりませんよ。と、綱吉がいう。
骸ならば多少はその辺の目利きができるかもしれないが、未だかつて彼がこのオークションについてきたことはない。曰く、気分が悪い。らしい。
そんな綱吉に、ロンシャンがヘラリと力の抜けた笑みを浮かべる。
「だーいじょうぶ!沢田ちゃんが気になったもの以外を落札するから!」
「どう言う意味だロンシャン!!」
あぁん?と、ドスを聞かせる綱吉は、なぜかやたらと〝アタリ〟を引くことでひそかに名が知れ渡っていた。
「だって、この前買った本、本物だったんでしょ?」
「さも当たり前のように言わないでよ。たしかに面白がったルッスが恋のおまじない使ってレヴィがえらいことになったけど!」
面白半分でルッスーリアが綱吉が落札した〝魔術書〟を試したところ、どうやら本物だったらしい。正気を失ったレヴィ・ア・タンがスクアーロに夜這をかけると言う珍事が発生した。
奇声とともに崩壊したアジトに、事の次第を聞いたザンザスが珍しくスクアーロを咎めなかったと言うからかなりのものだろう。
あのスクアーロに対していつでもどこでも理不尽な暴力をふるうザンザスがである。
「その前はなんか変わった銅像だったろ」
「あぁ、夜中になると首が回るんですよ。ずっと同じポーズだと肩こるとか言ってましたね…」
まぁその程度で害はないですけど。と、笑う綱吉の笑みは何処か虚ろだ。とにかくそんなこんなで綱吉が落札してくるものはとにかくろくでもないものばかりだ。
家庭教師には超直感の無駄遣いと謗られ、オカルトが苦手な右腕には何とも言えない表情をされる。
「そんなわけで、沢田ちゃんが気になったのは避けるから!」
「ツナ頼む!」
「今度の会合覚えてろよ、二人とも」
―――がっつり条件付けてやる
敬愛するディーノにすら敬語を忘れて吐き捨てるしかない綱吉である。
そして、三人がそんなやり取りをしている内にもオークションは進んでいく。
「さて、次の掘り出し物はジャッポーネの人形だ!」
視界の男が何が愉しいのかテンション高くそう叫んだ。もしかしたらテンションでも高くしてないとやってられないのかもしれない。
その言葉にディーノが目録をめくる。ちなみに二人とも適当な壺やら銅像やらをこれまた適当に落札済みだ。
「あぁ、ツナが気になったって言ってた奴な」
あくまでもなんとなくですけどね。と、気がなさそうな態度で舞台を見つめる綱吉。三人の前にガラガラとワゴンが持ち出される。
そしてビロードの布が取り除かれると、そこには人間の赤ん坊ほどの大きさの市松人形がちょこん。と置かれていた。
あれま、見事な日本人形。と、綱吉が呟いた時だ。
「!?」
ギチリと、綱吉の動きが固まった。
「どうした沢田?」
不自然な動きをする綱吉に笹川が首をかしげる。その声に綱吉が首を振る。
「い、いや気のせい。うん。気のせいだよね!」
ブンブンと首を振りながら、まるで自分に言い聞かせるように綱吉が同じことを繰り返す。それに首を傾げた三人だが、不意にディーノが綱吉と同じように固まった。
「お、おいツナ」
「気のせいですディーノさん。全力で気のせいです!」
「え、いや、沢田ちゃん、現実を見た方がいいと思うんだよねー」
アレ。と、ロンシャンが指をさすのは、舞台の上の市松人形であり、舞台および一階の客席はざわざわとざわついている。
司会が静かにするように声を荒げているが収まる気配はない。それはそうだろう。何しろ正面を向いてしかるべき人形が、堂々と二階席へと視線を向けているのだ。
しかも視界が何度人形の置き位置を変えても視線を逸らさない徹底ぶり。
「沢田ちゃん」
「見てるよね、見てるよ!
つぶらすぎる瞳でオレを見てるよぉぉぉおお!」
―――オレが何かやりましたか神様!!
幸いにして、その日綱吉は人形を落札させずに済んだ。
しかしながら、後日落札者から「毎日、貴方のところへ運べと人形が脅すんです」と、言う連絡があり、泣く泣く引き取る羽目になった綱吉である。
「ダメツナめ」
なんでわざわざそんなものを引き取るんだ。と言う家庭教師に、綱吉はため息をつく。
さらに、貴族としての付き合いもある。今はまだ九代目が健在であるのである程度は引き受けてもらっているのだが、徐々に綱吉にもその比重が移りつつある。
そんな綱吉の一つの仕事に、オークションへの参加と言うものがある。チャリティーのような健全なものから、人や武器と言った後ろ暗いものまで、扱うものは種類は多岐にわたる。
その中でも綱吉が一番嫌がるのは、いわゆる「曰く憑きのもの」ばかりを取り扱ったオークションだ。
髪の伸びる人形や夜な夜な動き回るくるみ割り人形なんて言うものは可愛いもので、持ち主を次々と鬼籍送りにする呪われた宝石や生き血を啜る絵画など、ろくでもないものも多い。
もちろんほとんどが噂の域を出ないものであったり、偽物であったりするのだが、中にはシャレにならないものもある。また、どこから流出るするのか、門外不出のはずの指輪が出て来ることもあるので、綱吉やロンシャン、ディーノをはじめとする裏社会に顔の効く――もしくは住人――が参加しないわけにはいかないのだ。
「沢田ちゃ~~ん」
「ツナ~~」
「なんですか二人とも…」
VIP用の席でパラパラと本日の出展目録に目を通していた綱吉のところに、ロンシャンとディーノがやって来た。護衛として同行した笹川も首をかしげる。
「なんなの、二人とも…」
何処かげんなりとした態度で綱吉が答える。その顔には「帰りたい」とでかでかと書かれていた。
そんな綱吉に、同じく帰りたいと言う態度を崩さないロンシャンがすがりつく。
「沢田ちゃん、気になるものはどれ?!」
本日のオークションではすでに事前見学で――VIPは事前に出展物が見れる――指輪がない事はわかっている。わかっているのだが、付き合いというものがあるので、適当に落札しないといけないのだ。
もちろん毎回毎回落札する必要はないのだが、どうやらロンシャンとディーノは今回は落札しないとまずいらしい。
「なんでも好きなの落札しなよ」
オレに聞くな。と言う綱吉にロンシャンはブンブンと首を振る。
「そんな事言わないでよ!沢田ちゃんとバッティングするの待ってたんだから!!」
見捨てないで!と、大げさなほど縋りつくロンシャンの後ろで、兄弟子もコクコクとうなずいていた。
「ディーノさんまで…」
いったい何なんだ。と言う綱吉に、ディーノは豪奢な金髪をぼりぼりと無造作にかき混ぜながらため息をつく。
「いやぁな、トマゾも俺も痛い目を見たことがあるわけで」
因果な商売をしているとは自覚している。しているが、抗争で死ぬならまだしも呪いだのなんだかよくわからない力で死ぬのは勘弁してほしいと言うのが本音だ。
「だからってなんでオレに聞くんですか」
オレには分かりませんよ。と、綱吉がいう。
骸ならば多少はその辺の目利きができるかもしれないが、未だかつて彼がこのオークションについてきたことはない。曰く、気分が悪い。らしい。
そんな綱吉に、ロンシャンがヘラリと力の抜けた笑みを浮かべる。
「だーいじょうぶ!沢田ちゃんが気になったもの以外を落札するから!」
「どう言う意味だロンシャン!!」
あぁん?と、ドスを聞かせる綱吉は、なぜかやたらと〝アタリ〟を引くことでひそかに名が知れ渡っていた。
「だって、この前買った本、本物だったんでしょ?」
「さも当たり前のように言わないでよ。たしかに面白がったルッスが恋のおまじない使ってレヴィがえらいことになったけど!」
面白半分でルッスーリアが綱吉が落札した〝魔術書〟を試したところ、どうやら本物だったらしい。正気を失ったレヴィ・ア・タンがスクアーロに夜這をかけると言う珍事が発生した。
奇声とともに崩壊したアジトに、事の次第を聞いたザンザスが珍しくスクアーロを咎めなかったと言うからかなりのものだろう。
あのスクアーロに対していつでもどこでも理不尽な暴力をふるうザンザスがである。
「その前はなんか変わった銅像だったろ」
「あぁ、夜中になると首が回るんですよ。ずっと同じポーズだと肩こるとか言ってましたね…」
まぁその程度で害はないですけど。と、笑う綱吉の笑みは何処か虚ろだ。とにかくそんなこんなで綱吉が落札してくるものはとにかくろくでもないものばかりだ。
家庭教師には超直感の無駄遣いと謗られ、オカルトが苦手な右腕には何とも言えない表情をされる。
「そんなわけで、沢田ちゃんが気になったのは避けるから!」
「ツナ頼む!」
「今度の会合覚えてろよ、二人とも」
―――がっつり条件付けてやる
敬愛するディーノにすら敬語を忘れて吐き捨てるしかない綱吉である。
そして、三人がそんなやり取りをしている内にもオークションは進んでいく。
「さて、次の掘り出し物はジャッポーネの人形だ!」
視界の男が何が愉しいのかテンション高くそう叫んだ。もしかしたらテンションでも高くしてないとやってられないのかもしれない。
その言葉にディーノが目録をめくる。ちなみに二人とも適当な壺やら銅像やらをこれまた適当に落札済みだ。
「あぁ、ツナが気になったって言ってた奴な」
あくまでもなんとなくですけどね。と、気がなさそうな態度で舞台を見つめる綱吉。三人の前にガラガラとワゴンが持ち出される。
そしてビロードの布が取り除かれると、そこには人間の赤ん坊ほどの大きさの市松人形がちょこん。と置かれていた。
あれま、見事な日本人形。と、綱吉が呟いた時だ。
「!?」
ギチリと、綱吉の動きが固まった。
「どうした沢田?」
不自然な動きをする綱吉に笹川が首をかしげる。その声に綱吉が首を振る。
「い、いや気のせい。うん。気のせいだよね!」
ブンブンと首を振りながら、まるで自分に言い聞かせるように綱吉が同じことを繰り返す。それに首を傾げた三人だが、不意にディーノが綱吉と同じように固まった。
「お、おいツナ」
「気のせいですディーノさん。全力で気のせいです!」
「え、いや、沢田ちゃん、現実を見た方がいいと思うんだよねー」
アレ。と、ロンシャンが指をさすのは、舞台の上の市松人形であり、舞台および一階の客席はざわざわとざわついている。
司会が静かにするように声を荒げているが収まる気配はない。それはそうだろう。何しろ正面を向いてしかるべき人形が、堂々と二階席へと視線を向けているのだ。
しかも視界が何度人形の置き位置を変えても視線を逸らさない徹底ぶり。
「沢田ちゃん」
「見てるよね、見てるよ!
つぶらすぎる瞳でオレを見てるよぉぉぉおお!」
―――オレが何かやりましたか神様!!
幸いにして、その日綱吉は人形を落札させずに済んだ。
しかしながら、後日落札者から「毎日、貴方のところへ運べと人形が脅すんです」と、言う連絡があり、泣く泣く引き取る羽目になった綱吉である。
「ダメツナめ」
なんでわざわざそんなものを引き取るんだ。と言う家庭教師に、綱吉はため息をつく。