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Happy Halloween!!

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「Trick or Treat」
「……ひ、雲雀さん? え!? ど、どどどどどうしちゃったんですか雲雀さん!?」
「なに、ちゃんと喋って。そして僕の言葉に答えなよ」
「いや、だって。え、えええ? 中学からの付き合いのある先輩、しかもとってもまじめな人だと思っていたのが突然そんな服装で目の前に現れて『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』じゃ驚かないって方が無理です」
「服装は君だって似たようなものでしょ? 何その古くさいスーツにマント」
「あ、酷いなあ。俺のこれは吸血鬼の衣装です。マントはナッツが楽しげに演じてくれてるんですよ」
「君の職場は仕事中にそんな物を着るのかい?」
「その言葉、そっくりそのままあんたに返してやりたい気持ちでいっぱいですが……俺は孤児院帰りなんです。西部の孤児院視察したついでに子供達にお菓子配ってきました。あ、雲雀さんも行きたかったんですか? 南部の孤児院、骸に行かせるつもりだったんですが変わりに行きます?」
「なんで僕がそんな群れのとこに行かなくちゃいけないの。僕は君に、言ってるんだけど」
「あ、そうですか」
「ほら、Trick or Treat 早くしないと咬み殺すよ?」
「……その格好で脅されてもどうしていいかわかりませんが。とりあえずハロウィンて事だけは理解しておきます」
「早く。あるもの全部寄こしな」
「そんな真顔で。あるもの全部とか……服装がそれじゃなかったら泣きながら走って逃げ出す勢いの怖さです」
「くだらないことはいいよ」
「はいはいすみません。でも雲雀さん甘かったですねえ。俺の部屋はボンゴレの屋敷の中で一番お菓子が溢れてるって、先日メイドにまで言われちゃったんです。来た人皆おやつ置いてくんですもん」



 勝ち誇った顔で来客用のテーブルの上や棚の中、こっそり日本から輸入してるお菓子を隠す鍵付きの引き出しまで開けた綱吉は、違和感に眉を潜めた。
「ない」
 おかしい。
 先日ディーノからもらった噎せ返るほど甘い砂糖菓子も、山本がどこからか持って来たうまい棒も、綱吉が楽しみにしていたポテトチップス(季節限定のバター醤油味)までも。綱吉の部屋からは菓子や菓子類の全てが綺麗さっぱりに消え去っていたのである。
「あっれー?」
 綱吉の部屋の鍵などあってもない様な物だから、知らないうちに遊びに来たランボや誰かが部屋に入って、そっとクッキーやらポテトチップスを攫って行くことはある。それならば綱吉は、部屋に入った誰かの名残にくすりと笑って、仕方ないなあと呟くだけでいい。
 だが今回は部屋にある菓子全てがまるで、始めから存在してなかったかのように綺麗さっぱり消え去ってしまったのである。
 ロッカーに首を突っ込んで首を傾げる綱吉の、その背でくすりと笑った雲雀。
 雲雀が笑うという、本日の服装に並ぶ緊急事態に驚いて、扉の角に頭をぶつけながら立ちあがった綱吉の手を、雲雀の大きくて白い、指の長い手ががしっと掴んだ。
 へ、何? とクエスチョンを飛ばす綱吉に美しく微笑みかける雲雀はゆっくりと口を開いた。
「さすが赤ん坊。この衣装をくれたのも君の部屋の菓子を全部撤去してくれたのも彼だけど、さすが彼。どっちも完璧な仕事で、相変わらずほれぼれするね」
 強く握った綱吉の腕は離さないまま、雲雀はもう片方の手で衣装の端。濃紺のプリーツスカートの端をちょいと摘まんで揺らした。
 綱吉は改めてリボーンの功績であると知った雲雀の衣装を見る。
 濃紺のプリーツスカートに濃紺の上着。白い二本線のあしらわれた大きな襟に真っ赤なスカーフまでつけて、とっくの昔にいい大人の、そして男性の筈の雲雀恭弥は、見事にセーラー服を着こなして妖艶に微笑んでいた。
「菓子がないならほら、ベッドの上でいたずらしようか」
「いや、いやいやいやいやそんな直接的な! ってそうじゃなくてまだ明るいし仕事中ですし。大体そんな格好した雲雀さん相手にどうしろと」
「大丈夫。君の分に学ランも用意してあるから」
「ますます嫌! 俺なんか危険な世界に連れ込まれそうになってる」
「ぐだぐだ言ってないで、Treatがないなら甘んじてTrickを受け入れなよ」
 嫌がる綱吉の手を引いて、喚くのは御約束のようにスカートの下から取り出したトンファーで黙らせた雲雀は、楽しげに綱吉を寝室へと引きずって行く。
 あ、セーラー服にもちゃんと風紀の腕章付けてる。さすがリボーン、細かいとこまで手を抜かないなあ。
 ほとんど自棄のようにそんな事を思いながら、綱吉は雲雀にされるがままに寝室の扉の向こうへと消えて行った。
作品名:Happy Halloween!! 作家名:桃沢りく