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貴方が可愛すぎるのがいけない

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帝人は目の前の美女の顔を見て、情けなく眉を下げる。美女の手にはミカドが着た事のない超絶ミニスカート。制服のスカートより短い・・・・と帝人は現実逃避するように思った。美女がずいっと帝人にスカートを押し付ける。帝人はその分後退する。
「ミカド」
「は、はい・・・・」
「もう一度宣言します。この服を着用希望します」
「・・・・・それスカートですよね」
「はい」
「し、下にレギンスとかタイツとか穿いたりは、」
「邪道です」
つまり素足で穿けということですね、わかります。
「むむむむむむむむむ無理ですぅぅぅぅぅぅッッ!」
帝人は近年稀に見る俊敏さで逃げた。
後に残された美女、―――ヴァローナは華奢な背中があっというまに小さくなるのを眺めながら「ターゲット逃走」と呟いた。しかしすぐに持っていた袋(やけに膨れている)にスカートを突っ込むと、美しい顔を引き締め、「追尾します」と誰に言うでもなく呟き帝人の去った方向へと走り出す。そのスピードは逃走した少女なみに早かったと、奇しくもやりとりの一部始終を見ていた名も無い一般人は後に同僚に語った。



平和島静雄は公園で休憩をしていた。後輩であるヴァローネの姿が見当たらないことに気付きながらも、特に気にしてはいなかった。自販機で購入した珈琲を口に含む。若干温くなったそれに眉をしかめていたら、遠くから名前を呼ばれた。
「あ?」
「静雄さあああああああああああん!!」
弾丸の如く横っ腹に飛び込んできたのは静雄がこっそりと想いを寄せる少女だった。
「りゅ、竜ヶ峰?」
思いもよらぬ接触に顔を赤らめる静雄に、貼りついた少女は勢い良く顔を上げた。そして開口一番「助けてください!」と叫んだ。
「は?」
「やばいんです僕無理なんです静雄さん助けてください!!」
「いやいやいやとりあえず落ち着け、な。竜ヶ峰」
「うえええええ・・・・」
「な、泣くなって!・・・・何かあったのか?」
「うう、実は・・・・ヴァローナさんが」
「よし殺してくる」
「最後まで話聞いて下さいっ。あと殺しは駄目です!」
今にも公園のベンチを持ち歩き出そうとする静雄の腕にしがみ付く帝人は内心(人選誤ったかも)と思いつつも、砦とばかりに静雄に訴える。
「と、とにかく説明しますから、かくまってくだ「目標捕捉しました」にゃああああ!?」
「てめぇヴァローナ!姿見えねぇと思ったら帝人に何しやがった!!?」
「まだ何もしてません」
「まだってことは今からするってことかよ!覚悟出来てんだろうなぁぁぁッ」
「ミカド」
「はひっ(すごい静雄さんのこと無視してる!)」
「あれの着用が無理なら、別のに変更可能です」
「べ、別の?」
「これです」
持っていた袋から、ヴァローナが取り出したのは、これまた超絶ミニなメイド服だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「メインです」
「ヴァローナ、グッジョブ」
「静雄さん?!!ってさっきのより悪化してるじゃないですか!着ませんからね!!」
「今なら猫耳カチューシャ付きです」
「嬉しくない特典!」
「大丈夫、ミカドなら完璧に着こなせます」
「無理です無理です無理です」
「馬鹿野郎、ヴァローナ何言ってんだ」
先ほどヴァローナに対しサムズアップした静雄が、心底呆れたようにため息を吐いた。それに一回裏切られた気分だった帝人の心が浮上する。
「静雄さん・・・・」
(ああやっぱり僕の人選は間違ってなかった・・・・)
「猫耳なら尻尾も付けんのが常識だろうが」
帝人の味方は敵だった。
(超絶間違ってたーーーーーーーーーー!!!)
前言撤回前言撤回!帝人はじたばたともがくが、いつの間にか腰に廻っていた静雄の腕に阻まれる。
「成程。失念していました」
「日本の常識だ。覚えとけ」
静雄さんが狩沢さん達みたいになってる・・・!やばい本気でやばい。帝人がざあっと顔を青ざめた時、「何してんだ」と声が掛けられた。
はっと顔を上げれば、そこには静雄の友人であり、帝人の知り合いの中でも数少ない常識人(と書いて苦労人と読む)な門田が立っていた。
「門田さん・・・・っ」
天の助けとばかりに顔を輝かせた帝人はすぐに地に突き落とされた。
「えーなになにメイド服じゃん。超絶ミニで猫耳!何と云う萌え神具!もしかしてみかプーが着るの?何その美味しい展開!私ら呼ばなきゃ駄目じゃない!!」
「何すかコスプレ願望ありっすか!だったらメイド服着た後はこのイン●ックス仕様のシスター服もおすすめっスよ!」
そうだった。門田さん居る所にこの人たちも居るんだった・・・・・・!!
帝人は静雄に腰を抱かれたままぐったりとした。もうどうにでもしてくれといった感じである。
けれど最後に帝人はぽつりと呟いた。
「せめて、人の居ない場所でお願いします・・・・・」







帝人は部屋の片隅で小さくなっていた。あれから怒涛のコスプレ大会が始まり、帝人は羞恥が吹っ飛び最早無の境地に入っていた。たまにぴったり身体に合う服に(何か仕組まれてた?)と疑心暗鬼になりながらも、帝人はフラッシュと写メを撮る音に耐えぬいた。よくやった僕。一応ワゴン組には絶対ばらまかないで!と涙ながらに訴えたので、多分大丈夫だと思うが、あれが友人や某情報屋の手に渡りでもしたら帝人はその日のうちに実家に帰ろうと決意した。
「ミカド」
「・・・・・・・・・・何ですか」
元凶であるヴァローナに声を掛けられても無視できないのが帝人である。結局少女は流されやすくかつお人好しなのだ。
「怒ってますか」
「・・・・怒ってはないです」
「そうですか」
「そうです」
帝人がちらりと視線を上げると、無表情の中にちょっとだけしょんぼり感を見せる美女が居た。どうやらやりすぎたということは自覚しているらしい。でもどう声を掛けたらいいものかと戸惑ってる様子のヴァローナに、帝人は(しょうがないなぁ)と苦笑した。自分は本当に甘い人間だ。
「そうですね。サイモンさんのお寿司奢ってくれたら許しますよ」
「!了承しました。すぐに手配します」
ばたばたと出ていったヴァローナを(意外とかわいいひとかも)と思いながら、帝人も静かに部屋を後にした。





(大トロ、中トロ、マグロにタマゴ、ウニ。後何を希望しますか?)
(ええっとそんなに食べれないです・・・・)
(駄目です。ミカドはただでさえ細すぎます。なのでたくさん食べることを要求します)
(じゃ、じゃあ半分こしましょう!)
(半分・・・?)
(はい。一緒に食べましょう。そのほうがきっとおいしいですから)
(・・・・了承しました)








おまけ
「でも静雄さんがメイド属性なんて知りませんでした」
「なっ、何だその誤解!?」
「だってヴァローナさんがメイド服出した時超いい顔してましたよ」
「・・・お前に着せるからだろ」
「へ?」
「お前が着るもんなら何だって俺には属性なんだよ」
「は、・・・・・あ、ありがとうございま、す?」
「(わかってねぇだろうなぁ)」