デジャビュ
あ、と思った時には既に手遅れで三郎の拳骨が脳天に重く響いた。
ぐわあんと視界が揺れる。痛い痛い痛い痛い。頭を抱えながらあまりの衝撃にじたばたと床の上を転げ回った。
「い、いたあいいい!」
ぎりぎり奥歯を噛みしめる。
しばらくそうして我慢しているとどうにか幾分痛みも和らいできたので浮かんだ涙を隠すように指先でそっと拭ってから起き上がる。
と、そこには腰をくの字に折り曲げ僕と同じように涙を流す三郎の姿があった。涙は涙でも奴のは違う涙だけど。
わき上がる怒りに顔を歪めてその背中を踵でぐりぐりと踏みつける。そりゃもう思いっきり。
「なあに笑ってるのさ」
「ぷっ、くくく…だ、だって…!」
「だってなに」
「雷蔵の痛がりようったらまぬけ過ぎて…ぷっ」
吹き出しを合図に鞠の如くポーンと尻を蹴り上げて差し上げた。
さすがの三郎もこれにはギャッと短い悲鳴を上げ、今度はさっきと反対に体を海老反りにしてぶるぶると悶絶する。
「ぐ、ううう…」
「ああすごくいい気味。そのまま大人しくしといてくれます?」
「くっそ…」
まさに形勢逆転。のた打ち回る姿を見下ろしひっそりと優越感に浸る。
だけどふいに犬猫のような素早さで三郎が僕の足に飛びついた。
その勢いに巻き込まれ一緒になって床に倒れ込む。ついた尻餅がひどく痛んだけれど、それよりも怒った三郎が恐ろしくて慌てて両腕を交差させて顔を守った。
「らーいぞー」
「……なに」
「口付けさせて」
馬乗りになった三郎が防御した腕の隙間からするりと指を滑り込ませて、僕の唇を摘んだ。そうはいくか。
まだじんじんと熱を持つ脳天に少々憎たらしさも手伝って、その指先にがぶりと歯を立てる。
「ッ!」
「ふ、いい気味」
「…お前本当性格悪いな」
「その言葉そっくりそのままお返しするよ」
「っ、もう!いいからさせろって!」
「しつこいな!嫌だって言ってるだろ!」
押し合い圧し合い悲喜こもごも。
腕の隙間からちらと三郎を窺うと、とんでもなく釣り上がった両目がこちらをぎょろりと睨んでいた。こりゃあやばいと思った時には時すでに遅し。怒りの鉄拳が僕の頭目がけて落ちてきていた。
けどあれ?これってたしか…?
その瞬間、馬鹿みたいな既視感に小さく笑ってしまった。