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As long as love you

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(愛してるよ、僕と杏里の可愛い子)







竜ヶ峰茜には母親は居ない。
それは離婚とか最初から居ないとかではなく、茜を生んでほどなく亡くなってしまったのだ。
以来、茜の父である帝人は男手一つで茜を育てている。
一人で茜を育てる帝人には時折再婚話が舞い込んでくるようだが、帝人は首を横に振ることはあっても、頷くことはしなかった。


(僕が愛しているのは杏里と茜だけです)


帝人は茜に惜しみない愛をくれる。
死んでしまった杏里の分まで。
だから茜は寂しくなんてなかった。
他の子が母親の話をしても、羨ましくもなかった。
茜には帝人が居る。
それに帝人は杏里が最後まで茜を心配して、そして愛おしんで慈しんでいたと教えてくれたので、茜の心の中に母が生きて見守ってくれていると思えるのだ。
だから茜はけして寂しくない。





お父さん、お父さん。
茜はずっとお父さんと一緒にいるよ。
だからお父さんもずうっと茜の傍にいてね。





――――もちろんだよ、僕と杏里の可愛い子。










****


彼女がこの世を去ってもなお、僕が世界にしがみつくのは彼女が残した『愛』がこの手に残っていたから。
ただ、それだけだ。






「僕が調べたものはこれが全てです。他にも必要な情報がありましたら、言って下さい」
「―――いえ、今のところはこれで充分ですよ。さすが竜ヶ峰君だ」
「四木さんにそう言っていただけると嬉しいです」
年齢より幼げな顔にふわりと微笑みをのせる。
「世辞ではないですよ」
「ありがとうございます」
腕時計を見る。
そろそろ茜の幼稚園が終わる時刻だ。
帝人の動作に気付いたのか、四木が「お帰りですか」と聞く。
「はい。幼稚園が終わるので、そろそろ」
「お子さんがいらっしゃると大変ですね」
「いえ。僕の場合は茜がいるから頑張れるんです」
ソファから立ち上がると、四木が見送るように同じく立ち、ドアを開けてくれた。
「今度、お子さんもご一緒に食事でもどうですか?」
「四木さんとですか」
「おや、いけませんか?」
「あ、いえ、そんなことないです。・・・・是非」
嬉しそうに微笑む帝人の目元を、煙草の匂いがする指が触れた。
ことりと首を傾げれば、四木は僅かに苦笑する。
それに疑問を覚える前に、「ではまた明日」と言われ帝人もはいと頷き、部屋を出た。
残された四木は、帝人に触れた指先をじっと見つめ、手ごわいものだと部屋で一人楽しそうに零した。








思いのほか早く着いてしまった帝人は、茜が通う幼稚園に近い公園で時間を潰していた。
ベンチに腰掛け、流れる人の波を見つめる。
高校進学の為に埼玉から上京して、それからずっと帝人はこの街に居る。
愛してるとまではいかないこの街。
哀しいことも辛いことも、許せないこともたくさん経験した。
けれど帝人がこの街を離れないのは、愛した人と出会ったのがここだったから。
瞼を閉じれば、鮮やかに蘇る愛おしい人。
一緒にいれるだけでドキドキした。
想いが通じあった時は情けないけど泣いてしまった。
僕の涙を拭う彼女の眸も涙で濡れていた時は、もう死んでもいいとさえ思えた。


額から浮き出た汗が頬を伝い、地面へと落ちる。


ねえ、杏里。
君がいなくなって、もう何年過ぎただろうか。
茜は優しい子に育っているよ。
君の面影が見えるのがとても愛おしくてたまらない。
杏里。
君は、今、どうしてるのだろうか。
柔らかい温かな世界で、その身を委ねているのだろうか。
僕は君に会いたくてたまらない。
今すぐ君の元へといってしまいたい。
そうしないのは、君が残してくれた『愛』があるから。
杏里。
君と僕に与えてくれた愛する子を、生きる理由にすることしか生きられない僕を、君は、どう思うのかな。




「竜ヶ峰」



ぱちんと音が弾け、ぐらりと世界が揺れた。
ぼやけた視界が鮮明になり、帝人は目の前に立つ人物を漸く認識する。

「静雄、さん」

名を呼べば、端正な顔が僅かに歪み、冷たいボトルを押しつけられる。
反射的に受け取れば、「飲め」と低い声で告げられた。
「え、でも」
「でもじゃねぇ。何で影に行かねえんだ、熱中症になりてぇのか」
「・・・なりたくないです」
「なら、飲め。後、移動すっぞ。ここじゃあ暑すぎだ、涼しいとこで休まねえと」
ひでぇ顔色だ。
そう告げられ、帝人は己の頬に手を当ててみる。
少し熱いかなと思うぐらいで、自分ではやはりよくわからなかった。
「でも、僕そろそろ茜を迎えに行かないと」
「そんで倒れちゃ茜も心配すんだろが」
正論だ。
ぐっと押し黙った帝人に、静雄は険しかった顔をようやく緩めた。
池袋最強で喧嘩人形と称されているけれど、本当はすごく優しい人なのだ、この人は。
だから茜も懐いている。
(臨也さんとは大違いだ)
茜と対等に喧嘩するもう一人の知人を思い出し、帝人は思わず笑みを零した。
「茜は俺が迎えに行く。お前はあそこの木の影で待ってろ」
「平気ですよ」
「駄目だ」
ついでに言うと過保護なところもある。
帝人ももうれっきとした成人男性で、しかも子供も居るのに。
彼は出会ったときからこのスタンスだ。
そろそろ子供扱いから抜けてほしい気もするが、その心地好さに甘えてしまう自分もいる。
「・・・・じゃあ、お願いします」
「おう」
幼稚園へと足を向ける静雄を見送りながら、(そういえば静雄さんどうしてここに居たんだろう)とぼんやりした頭で思う。
ちょうど近くで仕事でもしていたのだろうか。
茜と帝人を気に掛けてくれる静雄は、たまに帝人がどうしても仕事を抜け出せない時に茜の迎えをしてくれるから、今日も寄ってくれたのだろうか。
(夕飯誘ってみようかな)
きっと茜も喜ぶ。
帝人はふわりと瞼を閉じた。
瞼の裏には愛おしい人が生きている。
生きて、帝人に笑ってくれる。
瞼を押し上げれば、愛おしい人が残してくれた愛おしい子が笑っている。
それだけで帝人は生きていけるのだ。
そして思う。
いつか、いつのひか。
愛おしいひとが残した『愛』が一人立ちし、しっかりと立って生きていけるようになったら。




(杏里、君の傍にいきたい)




声がする。
瞼を開ければ、手を大きく振って駆けてくる愛おしい子。
帝人は柔らかく眸を細め、佇んだ木の影から足を踏み出した。





(それまで僕は君の残した愛を慈しんで生きていくよ)
作品名:As long as love you 作家名:いの