二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

1.キキョウシティ/ツブラ

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 


「ヤドンの繁殖園?」

「そう!ウツギ博士から学会メンバーに、メールが回ってきたんでーす。
 おニュー施設ですから、フレーッシュなブリーダーの卵に
 ぜひぜひオープニングメンバーになって欲しいと!
 とにかく人手が要り用で、準ブリーダーの資格者は、5人グループで
 1人のベテランブリーダーについて、アシスタントをするそうでーす」

バンダナをほどき、
ジョバンニに青いどろどろ(作りかけのポフィンだった)を拭ってもらいながら
ツブラは封書に素早く目を走らせる。
見習い優遇。ごはんと旅館も保障つき。その上、依頼人はあのウツギ博士!
準ブリーダーの資格者にとっては夢のような仕事だ。受けない手はない。

知らず知らずのうち、抑えきれない喜びでむにゃむにゃと唇を歪ませている教え子の顔は
もう何週間振りかくらいに幸せそうだ。
ドロドロポフィンでいっぱいのタオルを机に置くと
ジョバンニはほくほくと胸を張り、さりげなーい風を装って

「期間は2週間。
 プロとのコネクションもできるし、アナタにもゴンベにも、いい経験になるとおもうですよー」

「もちろん!……え?」

言い渡した後のツブラは、まるで、抜き打ちテストを言い渡したときの生徒の反応だ。
もちろんそんなことは、塾講師にとっては慣れっこであるのだが
真っ赤な頬から色がすうっと引いて行くのを見るのは、若干良心が咎めよう。
ジョバンニは容赦せず、

「塾を離れるかわり、宿題をやりなさーい。
 このゴンベを、旅のパートナーにするのでーす。そして、一人前にして帰ってくること!」

と、言いきると、聞き間違えを期待していたらしいツブラからたちまち笑顔が消え去っていった。
上げた後に下げるのは教えのいろは、教員の常套手段だが
ベテラン講師のジョバンニ先生といえども、たまには失敗するようだ。

ムチャいいやがって!
ツブラが言葉を荒げたのを、紳士な彼は聞かなかったことにする。

「ああ!もう!何で先生はそんなにゴンベに拘るんですか!
 ……べっっつに、いいですよ?
 私はブリーダーだから、塾でアイツを躾るのは構わない!
 でも先生、自分がもし本気でヒワダまで行くってなったときのこと考えてみて。
 絶対ノーマルポケモンなんか選ばないでしょ!?」

ツブラはつかつかと壁際の棚に歩み寄り
モンスターボールがはめこまれている天板をずらりと眺めた。
ほとんど全て、ツブラが面倒を見てきた基礎練習用のポケモンばかりだ。
彼女はその中からニョロモのボールを手に取り、ジョバンニの鼻先に突きつける。

「ノーマルタイプじゃ、つながりの洞窟で格闘技に当たる確率があるから得策じゃない。
 私ならコイツにする。
 ハネッコでもいいけど、それじゃあキキョウ近辺の鳥使いを突破できるかわからないし
 つながりの洞窟には火吹き野郎が最低でも2人いるでしょ。
 ニョロモなら耐久力もあるし、いざとなったら、催眠術がある。
 しかも、こいつは冷静で、一番年季もあるから、集中して特殊技を当てるのに適してる」

「……さすが、ワタシの生徒ですねー」

そして、流石はブリーダーの卵。
数匹いるニョロモの中から、一番年長のニョロモを一瞬で見分ける能力は伊達ではない。
ここのポケモンに関しては、もしかするとジョバンニよりも詳しいかもしれないくらいだ。

「正当な理由がない限り、私はゴンベは連れて行かないからね。
 なんか言い返すこと、ある?」

ジョバンニは優秀な教え子に苦笑し、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。
回転いすがくるくる回る。

「あのゴンベは、この町にいる限り、育ちませーん」

「え!?何それ!」

聞き捨てならない言葉。ツブラの顔が再び真っ赤に染まる。
回りながら少しずつ教室を横断していくジョバンニを後ろから追っていく彼女は
なんだかいささか滑稽だ。

「あの子は、戦闘向きの子でーす。おおきーな才能もってる。
 トレーナーにつき、信頼関係を積みあげることで、それが花開きまーす。
 町にいるだけじゃー、どうにもなりませーん」

「わかってたなら、それを先に……ひゃあっ!」

軽やかに回るジョバンニは、普段の倍はコーナリングが素早い。
たいして広くもない事務室での追いかけっこなのになかなかツブラは追い付けず
挙句の果てにツブラは自分の零したポフィンのタネに足をとられ、ひっくりかえる始末。

「ノンノーン!ツブラクンには、分かってたハズでしょー?」


講師の笑い声と痛みと悔しさで、天井を睨みつけた彼女の視界
ふいっと、ゴンベが覗きこんできたのは、偶然だったのだろうか。


ゴンベからカビゴンへの進化要因は、未だ解明されていない。
様々な報告から、なつくことで進化するという説が今のところ有力ではあるが
決定的な証拠が見つかっていないのだ。
懐き。
心の問題は複雑だ。
扱うポケモンのメンタルまで掌握しなければならないブリーダーにとっても
それはとても重要な問題である。
ポケモンの、本能は戦闘だ。
好戦的で、扱いにくいポケモンほど、なつきを求めているというのは有名な話。
もしも、ゴンベがなつきにより進化するというのであれば
なおさら本能的になつきを求めると考えられる。

好戦的で、扱いにくいポケモンほど……

「アナタは、冒険をしないでーすね。
 できなーいと決めつけて、やらなーい。これ、悪いクセでーす」

仰向けになったまま、しばらくツブラはゴンベと見つめあっていた。
そうだ。どうして、こんな簡単なことを試さなかったんだろう。ブリーダー失格である。
ジョバンニの指摘に、ツブラはもう何も言い返せなかった。

「轢きますよー」

「わっ!」

呑気な脅迫を受け、がばりとツブラは通路の壁に寄り添った。
直後、ジョバンニの椅子が(脅しでなく本当に)ごぉーっと通って行った後、
「もうやだこの講師」「ふざけんな殺す気か」
そうわめきながらも、ちゃぁーんとゴンベを抱えて危険を回避させている教え子に
塾講師は、やはり自分の愛弟子だと、にっこりほほ笑んだのである。

「冒険ニガテのツブラクンに、冒険ダイスキのゴンベ。
 きっとベストパートナーになれるでしょー。
 先生からの、宿題。オセンベツでーす。やってごらんなさーい!」