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轍 きょうこ
轍 きょうこ
novelistID. 1480
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行動には理由がある

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分単位どころか秒単位で予定組んでると言われても不思議じゃないほど、総理顔負けに忙しいだろう男が居間にいるのを発見しててつこは回れ右しそうになった。
視線をはしらせてみたが、買い物にでも出ているのだろう。兄貴はいない。
おそらくあのバカ犬が入れたのだろうが…、どうして兄貴がいないのにこいつはここに居座っているんだろう。
うんざりとした気分でてつこは居間に踏み入った。
すると待ち構えていたように神堂令一郎が声をかけてくる。
「よォ、久しいな。日野妹」
瞬間、全身を覆うちりちりとした視線が痛い。
この視線の強さは怒気なんて可愛いものじゃない。殺気の域に入っている。
それが居たたまれなくててつこは恨みを込めて吐き出した。
「あたしにあんまり話しかけてこないでよ」
「挨拶もないしにいきなりそれか。理由を聞こう」
ここはてつこの家で、つまりてつこのテリトリーであるはずなのに、そんなことを微塵も感じさせないえらそうな態度で令一郎が告げる。
てつこは怒るよりむしろ呆れてしまった。
なんでもなにもない。
ちらと目をやれば、令一郎の傍にいつも控えているオリガから発せられている空気が一層張り詰めるのが分かる。まさかとは思うが、これに気づいてないのだろうか。だとしたら相当鈍感だ。
てつこは深々と嘆息した。
「自分の家なのに針の筵に座らせれてる気になるのよ」
ふうん、と言って令一郎はオリガを振り返る。その瞬間だけオリガの殺気が霧散する。
「なるほど。だが理不尽だな」
「部下の行いは上司の責任でしょ」
「部下の行動を把握するのは上司の責務だが、心にまで干渉するのは越権行為というものだろう」
「だから。あんたが話しかけてこなければいいだけのことじゃない。だいたいらしくないんじゃないの? 用もないのに―――」
「用なら、ある」
思いがけない強さで思いがけないことを言われててつこはきょとんと瞬いた。
「? あんたが用があるのは兄貴にでしょ?」
「……まさかとは思っていたが脳まで筋肉で出来ているのか」
「そんなわけあるか!」
むしろ納得したと言わんばかりの口調で頷かれて、てつこは持ち前の人並み外れた反応速度で反論したが令一郎は聞いていなかった。
「俺様は忙しい。一分一秒だって無駄な時間を過ごす暇などない」
言って、令一郎は今の今までふんぞり返っていたソファから立ち上がる。
近づいた視線に思わず後ずさりかけるが、令一郎がそれを許さなかった。強く視線を絡みつかせ、後ろに退くどころか目を逸らすこともさせない。
オリガの発する空気が冗談ではすまないほど険しくなっているのが見ずとも気配で分かるのに、令一郎の発する予期せぬ空気にてつこは身動ぎできずに固まる。
怒気は知っている。殺気も分かる。けれどこんなものをてつこは知らない。殺気や怒気、それらと同質でまったく異なる空気が令一郎を取り巻いて、てつこに向けられる。
「日野兄に用があるなら、あいつがいる時間に来るに決まっているだろう」
てつこは瞠目した。
これまでにないほど令一郎が近くにいる。
てつこが動けずにいることを良いことに令一郎は手を伸ばす。が、その指がてつこの頬に触れる寸前、オリガの声が割って入った。
「令一郎さま」
「ふん、残念だが時間らしい」
言って、令一郎が肩をすくめた瞬間、さきほどまでの空気が嘘のように鳴りを潜め、我知らずてつこは詰めていた息を吐いた。
「ひとつ、忠告しておく」
「な、なによ」
びくりと肩を震わせるてつこに令一郎は薄く笑みを浮かべる。
「二度と、俺様に向かって話しかけるななどと言うな」
その時になってようやく、てつこは彼が怒っているのだと理解した。
「次は、容赦しない」
令一郎は色恋など微塵も知らないてつこにも分かるほど深みのある艶を帯びた声で宣言すると、てつこの反応も見ずに去っていった。
もちろん、てつこに出来たのは黙ってその場に座り込むことだけだった。