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愛し愛される喜び

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今日は朝は日本人の食卓を模範にしたような朝食。真っ白なつやつやご飯に、香ばしいしゃけと浅漬け、海苔や納豆、あと卵も外せない。もちろん味噌汁も。いつもは二人分だけれど、今日は二人と子供分。全てが食卓に並んだのを見計らったように、リビングの扉が開かれた。

「おはようございます、波江さん」
「おはよー、波江ちゃん!」
「おはよう、ご飯は出来てるから冷めないうちに食べてちょうだい」

まるで家族のようだと思う自分が少しだけ恥ずかしかった。







食後は珈琲、というよりも彼の場合はミルク多めのカフェオレ。そして1日だけの同居人の少女、茜はココアだ。ソファで新聞を広げる帝人の左隣にちょこんと座った茜は甘いココアをこくりこくりと飲む。もちろんその反対側の右隣には波江がいる。帝人を挟んで仲良く並ぶ三人は違和感があるようで無いのが不思議だ。
「そうだ、茜ちゃん。赤林さん達は夕方迎えに来るそうだよ」
「ええー、茜もっと帝人君と一緒にいたい!」
「僕に言われてもなぁ」
「ちょっと、我儘言って帝人を困らせないで」
「ぶー、波江ちゃんのいじわる。波江ちゃんだって自分の家あるのに、帝人君ちに泊ってばっかって聞いたよ!」
「・・・一応聞くけど誰に?」
「臨也お兄ちゃん!」
「・・・・・・あー」
帝人が乾いた笑いを浮かべる横で「あのくそ餓鬼」と些か怖い呟きが落ちたが、帝人は全力で聞かなかったふりをした。
「茜も帝人君と一緒に住みたい」
「そういう台詞は大人になって帝人以外の人間に言いなさい」
「何で?」
「帝人は私のだからよ」
「じゃあ、茜が帝人君のものになるもん」
「あはは・・・・」
女性の戦いに男が口を挟むと悪化するというのが世論なので、帝人は賢明にも笑うだけに留めておく。内心女性は幼くても女性なんだなァと感心していたり。しかし時計の短い針が8を示すのを見て、帝人はとりあえず舌戦が途切れるのを見計らって声を掛けた。
「茜ちゃん、そろそろ着替えたほうがいいと思いますが。いつまでもパジャマじゃ休日の駄目なお父さんになりますよ」
「親父になるのはヤダ!」
「・・・・なんか胸にぐさっとくるのは気のせいでしょうか」
「?帝人君は親父じゃないよ?」
「・・・・ありがとうございます」
茜がリビングを出て行くのを見ながら、帝人はテーブルに置いてあったPCに手を伸ばす。カップを洗面台に置いてきた波江はその背中をじっと見つめた。
「波江さん?どうかしましたか?視線が痛いです」
「・・・・ねえ、帝人」
「はい」
「今朝出されてた貴方の洗濯もの嗅いだんだけど」
「嗅い・・・」
「硝煙の匂いがしたわ。・・・・また何か危ないことしたの?」
「・・・・・・」
波江の問いに帝人は微笑んだ。
「怪我はしてないですよ?」
「してたら殺すわ」
「それは本末転倒じゃ・・・・・。まあでも、そ知らぬ誰かよりは波江さんに殺されるほうがいいかもしれませんね」
「・・・・・・・・・」
「冗談ですからそんな顔しないでください。抱きしめたくなるじゃないですか」
「っ・・・・・抱き締めればいいじゃない」
「そうですか?では遠慮なく」
華奢に見えて、やっぱり男の人な彼の腕に抱き寄せられ波江は一瞬だけ身体を硬くしたが、すぐに力を抜いて彼に胸に寄りかかる。素直な仕草に頭上でくすりと笑う気配がした。
「大丈夫です。昨夜のは簡単な仕事でしたし、後処理は栗楠会の方が引き受けてくれましたから」
「・・・貴方の大丈夫ほど頼りにならないものは無いわ」
「それは手厳しい」
くすくすと笑い続ける帝人に抗議するようにシャツ越しに思いっきり爪を立てる。「痛いです、波江さん」と言われたが無視をしつつも、逃がさないようにしがみつく腕の力を強くした。それをどう捉えたのか、帝人は笑いながら告げる。
「本当に大丈夫ですよ。貴方と茜ちゃんには指一本触れられないようにしておきましたから」
わざとなのかそうでないのか。見当違いのことを言う帝人に波江は僅かに腹を立てつつも、喜ぶ自分を自覚する。愛する人に護られるなんて、女としては至上の喜びの一つなのだから。ただそれにもう一人の名前が加えられているのは気に喰わないけれど。
「帝人」
「はい」
腕を離し、少しだけ高めの位置にある頬を両手でふわりと挟んだ。蒼い眸が波江だけを映すのを満足しながら、波江は言った。
「貴方は私のものよね」
帝人は笑った。否定もしないで、少しだけ照れくさそうに。できれば言葉も欲しかったけれど、その表情だけでも波江の心を愛おしさで満たすのには充分だった。


「あー!波江ちゃんずるい!茜も茜も!」


例えお邪魔虫が増えようとも、彼の愛と自分の愛が重なればどうってことないのだ。


「おはよー帝人さん!今日も相変わらず可愛いね!」
「死ねクソノミ蟲が!・・・・帝人さん、はよっす」



・・・・・・・・・・・・・多分。
作品名:愛し愛される喜び 作家名:いの