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tusanne/かんだ
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novelistID. 18265
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オルタナティブ

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また今日も夜が巡ってきた。あの忌々しい禁足日から幾夜巡ったのか、もう数える気力なぞ残ってはいない。それはつまり、この蔵に放り込まれてからどれくらい経ったのか、という事実を突き付けられているのと同等なのだから。三日目の深夜と十一日目の早朝と四十五日目の深夜に逃亡を企てて、そして全て失敗したことを覚えている。何故だか思考が駄々漏れのようで、逃げた先には必ずあの人が待ち構えていた。必死に抵抗したがどうにも勝てずに連れ戻された。四十五日目から――最後に失敗してから――は、数えるのを止めた。何度太陽が昇っても何度月が昇っても、自分が生きていることと何の関係もないんだと思い知ったから。

 三回目に計画が失敗した時、今までで一番酷く痛め付けられて、その後三日は声も出せず起き上がれず熱は下がらずで肺炎になりかけていたことは忘れてしまおう。だが、三日間全く食事に手をつけていないことを知った旦那が、血相を変えて走ってきたことは忘れられない。朦朧とする意識の中、乱れた銀色が抱きかかえてくれた。寝込んでいた間、オレが寝かせられていた和室に来なかった日は無かったし、むっつりと黙り込みながらも、毎日枕元でオレを眺めていた。何か言葉を交わした訳では無かったから、後悔でもしていたのかそれとも止めを刺そうと考えていたのか、はたまた全く別の事を考えていたのかは分からず仕舞いだった。

 その後、すっかり回復してからの旦那は何処か変わったように思う。オレの心が折れて、逃亡を企てることが無くなったからなのかそうでないのか。
ただ、肺炎がすっかり良くなったにも関わらず、オレをずっとあの和室に留め置こうとしたのは確かだ。丁重にお断りして自分から蔵に戻ったけれど。まさか本心からだったとは思わない。何故ならあそこは主人である旦那の寝室の真横にあったからだ。閨事に及ぶにはこれほど好条件な場所は無いと思うが、生憎とそういう行為を仕掛けて来なくなっていたのでそれは無い筈だった。…そういえば、セックスを求めなくなったのはいつからだろうか。あの日、三回目に脱走を企てる前日に手酷くいたぶられてから、かもしれない。考えるだけで恐ろしい。と言うのも、禁足日、お互いがお互いを本気で殺しにいったあの日まではそれこそ狂ったように性行為に及んでいたし、旦那だってそれを望んでいたから。それなのに、だ。

 旦那が今のオレにすることと言えば、朝一番にやってきてオレの髪を手ずから結い、その後甲斐甲斐しく食事の世話をする。誰のって、もちろんオレの世話を。そして陽が沈むとまたやってきて風呂に入れ、夜は食事を共にする。たまに添い寝をすることもあるくらいだが、それだって本当にただ寝るだけだ。あの人が、わからない。あの頃の方が今よりずっと殺伐としていたけれど、今よりずっと近くにあったような気もして。
もしも旦那が愛人関係を続けようとしているのならオレを抱かない筈は無いし、もう利用する価値が無くなったのならさっさと始末すればいい話だ。共犯者を生かしておいたってメリットは一つもないように思う。そう、あの日だって、殺そうとしていたのだから。

 ここまで回想して、自分が旦那に抱かれたがっていることに気付いた。あの頃は計画に必要な手段だったけれど、今は生きる理由になってしまっているようだ。あの頃は尊也のためだったけれど、今は。

 ながいながいながい間旦那の顔しか見ない日が続いて、旦那の、幹孝さんの事しか考えなくなった。今日は抱いてもらえるのか今日も隣で寝るだけなのか明日はどうだろう幹孝さんはオレを生かしたいのか殺したいのか愛でていたいのかそれとも憎んでいるのか抱きたくないほどに。オ レ は い っ た い ど う な る ん だ。
ぐるぐるぐるぐる、ただ考えるだけの日々。何も与えられず何も奪われず、生きているのか死んでいるのか、ただ息をするだけの日々。いっそ殺してくれと言えないのは、何故だろうか。

 最近頓に弱くなったと自分でも思う。手のひらがぶれて見えることが多くなったし、風呂とトイレくらいしか立って歩かないから、足腰もだんだんと弱くなっている筈だ。抱かれるわけでもないしな。今はもう脱走を企てる気も起こらないし、もし脱走出来たとしても、弱ったこの身体じゃそう遠くまでは逃げられない。今までと同じように直ぐに捕まってそして連れ戻されるのがオチだし、そんな分かり切ったことを命を賭して実行する必要性は皆無だ。それなら尚更、酷く抱いてほしい。幹孝さんに必要とされていた事実が欲しい。オレの身体だけでも欲しがってくれないか。頭から喰らってくれてもいいから。いや、生爪を一枚一枚剥いで指先からじわじわと好物を食べるように殺してくれたっていい。そう、こんな風に飼い殺しにされるんじゃなくて、もっと―――


 がたん、蔵の内扉が開いて光が差した。いつの間にか寝入ってしまっていたようだ。……幹孝さんが夕飯を持ってきたか、それとも風呂の時間か。一日のうちにそう何度も幹孝さんに会える訳じゃないから、毎回心待ちにしている自分がいる。逆光でよく顔が見えないけれど、幹孝さんの銀色がてらてらと鈍く光っているのが見える。

   ああ、おれはこのひとに―――




 オレにとって、光とはなんだったのか。求めていたものは。どうにかして掴もうと、死に物狂いになったものは。それは尊也だったのかもしれないし、鬼だったのかもしれない。あの頃はそれが全てだった。ただ、それはあの頃の自分の話で。今、ここにいる自分は幹孝さんによって生かされていて、幹孝さんのためだけに存在している。今はただそれだけが全てで。…旦那を愛したことを後悔しなかった日はないよ、ねえ。





「Please kill me and kiss me, please.」




作品名:オルタナティブ 作家名:tusanne/かんだ