二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【ポケモン】ふたりの旅路

INDEX|1ページ/1ページ|

 
焚き火が爆ぜる音がする。てらてらと辺りを浮かび上がらせる中に、もうひとつ枝を放り込んでやりながら、ふうと溜息をついた。組み立てた簡易セットには飯盒がぶら下がっている。いい具合に溢れてきた泡が火に炙られてしゅうしゅうと音を立てていた。
 ご飯の匂いを敏感に嗅ぎつけて、少年の最初の仲間がちょうだいちょうだいと顔を擦り寄せてくる。まだだよと少年が鼻の頭を指でくすぐると、いかにも残念そうに尻尾を垂れた。
 図体だけが大きくなったばっかりで仕方ないやつだ、とモモンの実の絵がプリントされた缶詰を相棒に放る。上手いこと受け取った彼のポケモンは、今度は牙なんかを器用に使って缶を切り始めた。きりきり、かちかち、と開ける手際は馴れたものだ。ちゃんと切り残しを作って蓋が落ちないようにしている。
 物珍しげにじいっと見ていると、こっちに気づいた少年はまるで裏のない笑顔を私に向けた。困ったような笑い方だ。こういう少年の笑い方は好ましい感じがする。首を伸ばして顔を近づけると、みんな食いしん坊だなあと言って同じように鼻先を撫でてきた。そういうつもりではなかったのだが。
 撫でる手の甲が赤く腫れている。虫刺されの痕だ。この間も変な草を触ったせいであちこちかぶれていた筈だが、今はどうなのだろう。治ったのだろうか。
 袖を噛んで引っ張ると、今度は甘えていると思われたらしく両腕いっぱいに抱きつかれた。……違う。首を引こうとしたがそのままぶら下がってきそうだったので諦めた。
 ―――私が認めた筈のこの少年は、有り体に言えば馬鹿だった。
 今ひとつ深刻になりきれない奴とでも言おうか。
 私と私のかたわれの戦いを間近で見ていたくせに、この少年ときたらあのときの私達を思い出して、物凄くかっこよかったと目をきらきらさせて宣った。いや褒められるのに悪い気はしないのだが、普通はもっと違う感想を抱くべきだろうと思うのだ。足元から超火力の火柱が噴き出すやら、空から万雷が降り注ぐやら、何百年も昔にイッシュを荒野にした力の数々を見ての台詞がそれか。それなのか。
 くすぐったいからやめろと帽子に顔を押し付けた。ひゃあだかうわあだか情けない声を上げる。そのまま蹈鞴を踏み、べしゃっと尻餅をついた。案外鈍臭い。
 帽子が落ちてしまったのを咥えて茶色の頭に乗せてやる。ありがとう、と帽子の下から声。顔は見えなかったが、やはり笑顔なのだろう、と思った。
 少年の手が眼に入る。いつもと変わらず優しい感触だったが、その手はぱんぱんに腫れていた。……あれは痛くないはずがないだろうに。
 薬がないならせめて冷やせばいいのに。また曲解されそうなら水辺まで引っ張っていこうか、そう思案を巡らせたとき―――少年がふと顔を上げた。
 いつか見た落ち着き払った目だった。
 口元には笑みが浮かんでいる。いつもの顔をくしゃくしゃにした子どもっぽい笑顔ではなかった。ほんの少しだけ、微笑という言葉が一番似合う笑い方で。腫れた方の手、人差し指をそっと立てて唇に当てる。
 ないしょだよ。
 唇が動いた。唇だけだった。
 私はどうしていいものか躊躇った。柔らかい微笑のまま、少年はまた私に手を伸ばす。羽で撫でるくらいの、あるかなしかの感触が頭に残された。ぽんぽんと尻を払い、帽子をかぶり直し、いつも通りににこっと笑う。それからうりゃー、と威勢のいい声を上げて缶詰に群がっていたポケモン達の広い背中にダイブした。
 またきやがったかとポケモン達が嬉しそうに鳴いて身体を揺すった。もみくちゃにされて折角かぶり直した帽子がまたぽろりと落ちた。つぶれるーとポケモンに埋もれた中から、少年のさっぱり緊張感のない声が聞こえる。鼻先でそのもみくちゃを掻き分け、少年の襟を噛んで引きずりだした。大切な帽子だけはしっかりと手に掴まれている。―――助かったよ、と少年はへにゃっと笑う。さっきのは気のせいだったのかと思ってしまうほど気の抜けた笑い方だ。
 きゅいきゅい、と育て始めたばかりのポケモンが焚き火の傍で鳴いている。湯気というより煙を噴いている飯盒を見て少年は素っ頓狂な声を上げた。……あれはまた立派な焦げができていそうだ。折り畳んだタオルを引っ掴むと少年は大慌てで飯盒を取り外した。そのまま蓋を開けると、中身を覗き込み、うあーと無事だったのか駄目だったのか判別しかねる声を上げた。少年の膝にちょんと乗ったポケモンが中を覗いて、きゅー、と嬉しそうに鳴いたのでたぶん無事だったのだろう。
 ……一部は。
 大きな溜息をつき、少年は膝のポケモンをぎゅうと抱き締めた。この少年との旅を続けて暫く経つが、野宿のときに腕を奮う料理は何かと豪快かつ単純な料理が多く、それだけに失敗した場合は誤魔化しが効かない分悲惨だった。今回は米だけでよかったと思うべきだろうか。
 半分泣きそうな顔でごりごりとへばり付いた飯の粒の形をした焦げを削っている。その情けない顔を見ながら、私は先程の表情の少年と、あの若草色の少年と戦ったときのことを思い出していた。