真昼と添い寝
周りと違って何時までも僕の日常に慣れない、平和島先輩その人以外の声をどんなに掛けられても起きられないことを、事によると当人は知らない、自覚もない。このまま物足りなさを抱えたままに寝床に帰りたくないのに、その鈍感さは定評がある程である。夢見が悪くなってしまいそうで、この心配と片恋が日常の隣に定着してしまいそうで、溜息を吐いた。
「どうした?」
「いえ、何でもありません」
あなたにとって只の後輩の、通行人の配役に割り当てられたにすぎない存在の悩み事なんて、何ともに収まる。
「いや、何でもないはないだろ」
微かに苛立ちを感じ始めている静雄さんは、導火線の短い爆弾のようである。見当の付いていない何処かが気に障ってしまったのか。せめて負の印象で認識されたくはないと冷静さを手早く集めるも、水面下のわたわたとしている思案を締め切られた。
「送る」
「あ、静雄さ、」
粗末な口調で投げられ心を取り乱されている間に、鞄と選択権を取り上げられてしまった。力でもどうしたって適わないので、道理からして無理。
陽に照らされて目が覚めても、夜の帳が降りなくとも、幸せな夢はみられるらしい。触れると弾けて消えてしまいそうな密かな望みと同じく、淡く不確かなものだけれども片恋の心臓にそれはもう十分に、負担が掛かり過ぎると感じる。
偶然に遭遇した、ふらりふらりと揺れるその後輩の足取りから目を離せない。
校舎の中や通学路でも眠たげな半目顔を何時もしているので、正確に人を判別しているのかどうかも怪しい。ともすれば掛けた声に律儀に反応するが、すぐさま猫のように眠りに落ちてしまう。そんな風な遣り取りが絶対であるから、病という理由があっても自分の呼び掛けなど意味がなく、必要とされてはいないのではないかとの虚しい思考に陥る。
想いの証を探して、偶然を必然にして、手を繋ぐには未だ相手の日常に居場所はない。夢に出入り出来たら、どんなに。
だが仕方のないことを考えるよりはまず、行動あるのみだろう。反応が返って来なくなってしまうまでに絆してしまえれば此方のものであるが、はてさて勝算はどのくらいあるのか。望みを生んでしまうことに関しても制御不可能であるから、楽観視せざるを得ないが。
自分の唇を柔らかそうなそれに重ねるのも、寄り添いを日常に組み加えるのも全部、あとの話だ。