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冬来たりなば 春遠からじ

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冷たい風が頬を掠め、吐いた空気が白く変わる、季節


寒いのはあまり好きじゃない
まぁ嫌いってわけでもないけど、出掛けるのが億劫になる
あぁもう、早く温まりたい
そんな気持ちでいっぱいになりながら、マンションの手前まで辿り着く


はぁ、と吐いた白い息の先に
小さく揺れる短い黒い髪、鼻の先まで赤くして白いマフラーに顔を埋めた、深い浅葱色の制服を纏った愛しい子供の姿が見えた




「っ……帝人、君」


聞こえない様に小さく呟いて、俺は溜息を吐く
かつかつと靴の踵を鳴らしながら近付くと、帝人君は顔を此方に向けて、ほっとした様な笑顔を浮かべていた
あまり見れないそんな表情に、ちょっとどきりとしてしまう
でもそんな感情は得意のポーカーフェイスで表には出さず、努めて冷静を装って帝人君に話しかけた


「あのねぇ……なんでこんな所で待ってるの」
「臨也さんがいなかったので」
「いないって…合鍵あげてるでしょ」
「家に忘れちゃいました……から、」


「あの、その……臨也さん、」
「……僕を、暖めてください」


寒さではないなにかで顔を赤くして、帝人君は俺から視線を逸らしておずおずと呟いた


その笑顔に見惚れてしまいそうになりながらも、俺はずっと考えていた
彼が鍵を忘れてきたというのは、“わざと”じゃないかということを
だってこれはもう四回目だ
一回二回ならまだしも、真面目な性格をしている彼がこんなに忘れるとは思えない
まぁ大半の理由は俺の勘、だけども


「たっく……しょうがないなぁ、帝人君は」


明るい口調で言いながら、帝人君の冷えた身体を引き寄せ強く抱きしめる
抵抗もなく大人しく腕の中に納まった彼
もし彼がわざとに鍵を忘れてきているとして、それにどんな得があるというのだろうか
冷たい風に細い肢体を晒して、いつ帰るかも分からない俺を待ちながら、彼はなにを考えているのだろうか


それでも、




「……ありがとう、ございます。臨也さん」


それでも、俺の腕の中で帝人君が本当に嬉しそうに、綺麗に笑うもんだから、俺は思考をぴたりと止めた
そうだ、こんなことしている場合じゃない
彼の大好きなココアでも入れて、早く暖めてあげよう





抱きしめた身体も握りしめた手も冷たかったけれど、心だけは酷く暖かで
傍らの小さな春を愛しく思いながら、一緒にマンションの自動ドアを潜った



(一緒に春を迎えよう)