二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

甘ったるい恋だった

INDEX|1ページ/1ページ|

 

人を味で表現するならば、彼女は『甘いひと』だろう。顔も声も雰囲気も、甘い印象を他人に与える。しかし彼女は『甘い』だけじゃないことも知っている。決めたことは最後までやるし、仕事ならば他人にもそれを強要する。特に取り立て屋などという世間一般に大手を振っては言えない職業など、甘いだけの人間では一生縁のないものだ。彼女はその中でとりわけ優秀ということから、甘いだけの人間じゃないことがわかる。
でも、それでも、やはり彼女は『甘いひと』だと、ヴァローナは思うのだ。






公園の水飲み場で冷やしたハンカチを頬に当てる。ほうっと吐息が吐かれ、気持ちよさげに大きな目がはんなりと細められた。ヴァローナも密かに安堵のため息を吐いたが、眉を顰めたままだ。帝人はそんな彼女の様子に困った顔で笑った。
「まだ怒ってるんですか?」
「当然です。先輩の顔を殴るなんて万死に値する行為です」
「あはは、まあでもお金は徴収できたからいいじゃないですか」
「・・・・先輩は甘いと断言します」
「断言ですか。ふふ、よく言われます」
笑う白い頬には痛々しい痣。暫くは残るかもしればいそれがヴァローナは憎いし悔しかった。もう少し自分の判断が早ければ、その綺麗な頬を薄汚い男から護れたかもしれないのに。とりあえず心の中で件の男を踏み潰していると、帝人の携帯が鳴った。
「はい、竜ヶ峰です。・・・・・ええ、終わりました。メールで送った通りです。・・・・ああ、そうなんですね。わかりました、すぐに」
ぱちりと携帯を閉じ、彼女はヴァローナを見上げる。
「トムさんが一度戻ってこいって。行きましょうか」
「・・・はい」
頬にハンカチを添えたまま、立ち上がる帝人をヴァローナはぼんやりと眺めた。きらきらと零れる木漏れ日を反射する、綺麗で真っ直ぐな黒髪が揺れる。甘いひと。こんなに簡単に人を許せる。さっきまであの手は『力』を振るうものとして使われていたのに、今はそんなもの忘れてしまったかのように、柔らかく頬に添えられていた。どちらが本当の彼女なのかではなく、どちらも彼女なのだ。ヴァローナはそれをよく知っている。――知っているのだけれど。
「―――先輩」
「ん?」
「先輩は甘いひとです」
「・・・・え、」
「甘くて、柔くて、優しすぎて、ずるいひとです。私がこんなに怒りを主張しているのに、先輩はどうでもいいことだと拒絶します。ずるいです。私は、先輩が殴られて、とてもとても悔しくて、あの男を殺したくなるぐらい、」
「ヴァローナ」
「・・・・・先輩は甘い。そして残酷だと、私は思います」
護りたい気持ちを、彼女は許すことで無かったことにする。それはあの男への甘さであり、ヴァローナへの甘えゆえだ。ヴァローナなら許してくれる。彼女は無意識にそう思ってるのだ。
「ヴァローナ」
「・・・・・」
ハンカチに添えられていた手が離れ、ヴァローナへと伸ばされる。ひんやりとした指が触れた。
「ヴァローナ、ありがとう。ごめんね、心配かけたんだね。まさかあそこまであのひとが抵抗するとは思ってなかったから、油断してたんだ。でもくらったのは一発だったし、まあいいかなってそう思ったから」
「・・・そういう問題じゃないと、主張します」
「あはは、そうだね。・・うん、ごめん。ただ怒るのってすごく体力いるし、僕は基本面倒臭がりだから、終わったことを引きずるのはあまり好きじゃないし、・・・ふふ、そんなところがよく冷たいともよく言われたなぁ」
そう言って笑った顔はとてもあどけなく、そして美しかった。
「ごめんね。そして僕のために怒ってくれて、ありがとう」
甘い匂いが鼻を擽り、彼女の存在がヴァローナを満たす。ああ甘やかされてると思う。でもそんな彼女がヴァローナはとても好きなのだ。
「会社に戻ろう、ヴァローナ。それで、手当てお願いしてもいいかな」
痣を指さし言った帝人に、ヴァローナは少しだけ俯いて「了解しました」と応える。柔い彼女の掌がヴァローナの手と繋がった。黒髪が華奢な背中で踊り揺れ動くのを、眩しい気持ちでヴァローナは見つめる。そういえば途中から敬語ではなかった。それが嬉しくて、にぎられた手を強く握り返した。





甘いひと。
そしてそんな彼女にヴァローナは恋をしている。
帝人のために怒って、哀しんで、戸惑って、嬉しくなって、心から笑えるそんな甘ったるい恋を。
作品名:甘ったるい恋だった 作家名:いの