みかど☆ぱらだいす@11/27UP
ミカドが大切な片割れの恋を応援する想いは嘘じゃない。幸せでいてほしいし、笑っててほしい。できれば辛い想いとかしないで泣かないでいてほしい。そう想うのは嘘じゃない、のに。
「これでもうミカドくんの大好きな大好きなお姉ちゃんは、静ちゃんのものになっちゃったね。静ちゃんが嫌いな気持ちは存分にわかるけど、それだとお姉ちゃんはどう思うかな?大切な妹と大好きな人との板挟みで苦しんじゃうだろうねぇ、優しいからあの子は。もしかしたら君の為に想いを諦めるかもしれない。もしそうなったら、君はどうする?罪悪感に苛まれる?それとも、歓喜に内震えるかな?」
ミカドはいっそ殺したいと言わんばかりに臨也を睨んだ。薄暗い部屋の中で淡い蒼の眸が怒りで爛々と輝く。
「・・・・貴方に、―――貴方に言われなくてもわかってますッ」
黒づくめの青年は口を閉じたが、笑みは保たれたままだ。まるでミカドの反応を観察しているような、不愉快な視線で。怒りで震える身体を息を吐くことで無理矢理押さえつける。ここで激情をぶちまけても、青年の思う様だ。それだけは嫌だった。
(言われたんだ、好きだって)
ミカドの知らない顔でそう囁いた大切な片割れ。それに何も応えられなかった自分。そうだ、覚悟とか、そんな大層なものじゃない。自分はただ、寂しくて、
(さみしいさみしいさみしいさみしいさみしいさみしい)
生まれる前から共に居た片割れ。全部の感情を共有できた。喧嘩もしたけれどすぐに仲直りした。ずっと一緒だよって手を繋いで笑い合った。いつか手を離す時がくると知っていても、信じてた。離れることは無いけれど、でも帝人はもうミカドだけのものじゃなくなった。これからの帝人の笑顔はあの人だけのものになる。帝人の心はあの人のものになる。ミカドが知らない、帝人を、あの人は知るのだ。これから先ずっと。そうだ。この底意地の悪い大人が言うとおり、ミカドは面白くなくて悔しくて寂しいのだ。そんなの言われなくたってわかってた。ただ目の前の青年にだけは見せたくは無かったのだ。
「ねえ、ミカドくん。さみしいって言いなよ」
それなのに、この青年はずかずかとミカドの内面に入り込もうとしている。
「さみしいって、素直に言いな」
言葉に毒を沁み込ませて、紅い目で縛り付ける、狡猾な男。
「そうしたら俺が優しく慰めてあげるから」
ミカドは思いっ切り唇を噛んだ。そうでもしないとあらん限りの罵声を目の前の青年に浴びせてしまいそうだった。ぎりぎりの矜持でミカドはそれを拒絶する。
ミカドが片割れを想う気持ちをどんなに大切にしているかきっとこの青年にはわからないだろう。わからないからこそ、簡単にそんな台詞が吐けるのだ。冗談じゃない。泣いて、誰かに慰めてもらって、消化できる想いなら、ミカドは初めから片割れの恋を祝福していた。良かったねと、笑って、言えた。
ミカドは噛み過ぎて赤く腫れた唇を震えさせながらも、無理矢理引き上げる。男の目が僅かに見開かれたのが見えた。
「貴方にだけは、寂しいなんて、言わない」
そのままミカドは青年に背を向けた。台所に立ち、袋の中から今日の晩御飯の材料を取り出す。もちろん二人分だ。さっさと作って食べさせて帰ってもらおう。それから一人になった空間でミカドは布団でも被って思いっ切り泣いてやるのだ。自分自身で寂しさと想いを乗り切ってやる。青年の手など、必要ない。そう思ったら、先まで身体の内を支配していた重苦しい感情が少しだけ軽くなった気がした。
ミカドは背中に注がれる視線に(ざまあみろ)と心のうちで呟いた。
寂しいなんて絶対に言うもんか。
華奢な背中を見つめながら、臨也は(手ごわいなぁ)と少しだけ面白くなさそうに口元を歪めた。
もう少しで堕ちるかと思ったが、臨也が心の底から欲しいと想う少女はやはり一筋縄ではいかないようだ。(まあいいか)まだチャンスはある。臨也が何重にも巡らせた罠を少女がどれくらいまで乗り切れるか。臨也は卑怯で狡猾な大人だったから持てるもの全てを使うことに戸惑いは無い。たかが十代半ばを過ぎたばかりの少女相手にと嗤われようが構わない。これが愛だと臨也は大声で演説さえできるほど臨也は少女にのめり込んでいる。少女にとって不幸なことはその事実にまだ気づいていないことだ。気付いていたのなら、臨也を部屋に入れることさえしなかっただろう。少女の諦めでさえ臨也は利用する。あの淡い蒼の眸が自分だけを映す日を心待ちにしながら、臨也は笑う。早く堕ちておいでと呟いた。
(ミカドくんの料理って斬新だよね)(文句あるなら食うな)
作品名:みかど☆ぱらだいす@11/27UP 作家名:いの