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ふたりのせかい

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芳野葛利劔。大日本帝国陸軍少尉。
薄蛍。半妖。
その二人の日常を一つ。





近付いて。
寄り添って。
その身に触れて。
交じり合って。
解け合って。
そんな、夢想。

「…私ったら…」
頬を染め、隠す様に手をあてる。
はずかしい。
なんて、はしたない。
そんな願望、知られてしまったら。

それでも。
自己嫌悪の念と共に。
それでも伝わってしまえばいい、なんて。
そう思ってしまうのは。

「利劔様…」

そっと、その名を紡ぐ。
想いを込めて。

恋焦がれ、恋い慕う。
彼女の想いは、視線は、一心に彼に注がれる。



可愛らしい。
生来無口である自分には。
そう口に出す事は難しく。
だから、その華奢で可憐な手を取って。
…この想いは、正しく伝わっているだろうか?

淡く綻び、花の様に咲いて見る者を幸福にするその微笑みは、こちらの心にも影響を与える。
自然に緩み、笑みを刻む己の口元に思うのはただ、お前を愛しいと感じる心。

「薄蛍…」

自分はそれを、心から幸せに思う。

彼の想いも、心もまた。
彼女へのみ向けられる。





手に触れる。
そっと。静かに。
怯えを微かに。けれど、それでも。
貴方に、触れたいと思うから。
「利劔様…」
小さく呼ぶと、視線を合わせ、緩やかに笑んでくれる。
大きな手。
流れ込んでくる想いは、とても優しくて、とても心地よくて。
「どうした?」
ふわり、と、大きな手に頬を包まれる。



温もりを伝えてくると同時、柔らかく、とても可愛らしくはにかんで。
心を読む能力は生憎と持ってはいないこの身にも、その心を伝えてくる様で。
「薄蛍…」
ただ名を呼ぶ事しか出来ない自分に、奇麗に微笑んでくれる。
…美しい、な。
意識せずに浮かんだ想いを受け取ったのだろう、頬を染め、瞳を伏せる。
ああ、こういう時に、お前の能力は困るな。
これでは、お前の瞳が見れない。





「…出来上がってるわ…」
「…出来上がってるね…」
「らぶらぶですわ~」
「うらやましいですわ~」
「二人の世界ですね…」
他五名の呟きなど知らず、今日も二人は二人の世界を構築する。
作品名:ふたりのせかい 作家名:柳野 雫