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君はSTAR!

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竜ヶ峰帝人は困惑していた。

「このお菓子、いかがですか?美味しいですよ」
「喉渇いたら、飲み物もあるから。何がいい?」

見目麗しい(当たり前だ、二人とも現在人気絶頂の芸能人なのだから)二人に挟まれる状態で、餌付け(そうだこれは餌付けだ)されている状況。
何がどうして、こうなった。








今を時めく俳優兼モデル、羽島幽平――本名を平和島幽という。何とあの平和島静雄の実弟だ――から帝人の携帯にメールが届いたことから始まる。
メールの交換は頻繁にしていたので、特に不思議とは思わなかったが、内容に帝人は驚いた。

(○×テレビ局にきて、今すぐ。待ってる。)

は?と帝人が一時停止したら、ピンポーンと来客を知らせる音。混乱した頭のまま出ると、何かこうお金持ちの運転手みたいな格好した人が立っていた。そして開口一番「羽島より頼まれた者です。お迎えにあがりました」と言われた。そして何が何やらわからぬまま、メールで指定されたテレビ局まで連れてこられた。(とりあえず家の戸締りをきちんとした自分を褒めてやりたい)
テレビ局の裏口のようなところで降ろされた帝人を待っていたのは、顔馴染みとなった幽のマネージャー。「こっちだよ。よく来てくれたね!」と未だ立ち直れない帝人を引きずって、とある控室まで連れていった。そこで待っていたのはもちろん元凶である本人と、これまた今をときめくアイドルである聖辺ルリだった。






そして今、帝人は芸能人に挟まれて、餌付けされているという珍妙な事態に直面している。



このままでは埒が明かんと思った帝人は、意を決して元凶である幽を見上げた。
「あああああの、幽さん」
「うん?」
「その、僕を、ここに呼び出したのは、どういった御用件で・・・・」
「・・・・・ああ」
幽は一度頷き、帝人を挟んで反対側に居たルリと目を合わせた。そしてまた帝人に視線を戻し、相変わらずの無表情で言った。
「俺がルリさんに帝人君のこと話してたら、ルリさんが会いたいって言って、俺も会いたかったから呼んだ」
「へ?!」
「前から帝人さんの話は幽平さんから聞かせてもらってて、ずっとお会いしたかったんです」
「えええ?!」
何か僕今日驚いてばかりだなと頭の片隅で冷静に思いながらも、帝人は呆然と麗しい顔二つを見上げた。
「帝人君は俺の大切な子だから、ルリさんに紹介できてちょうどいい」
たたたたたいせつって誰のことですか?!僕のことですか?!!
「帝人さんの写真、幽平さんに見せてもらいました。可愛らしい方だと知ってたんですけど、実物はもっと可愛いですね」
いえいえいえ貴方の方が何億倍も可愛いです!
きらきらと光る背景に、帝人は後退したくともソファと二人に阻まれて出来なかった。何この羞恥プレイ。マネージャーさん!お二人のマネージャーさんは居ないですか!?うろうろと視線を巡らせて助けてくれそうな者は当たり前だが居ない。半泣きになった帝人に、幽が追い打ちを掛けるように「もう暫くは一緒に居られるから」と告げた。
それから暫くの間、ルリと幽に挟まれるというある意味贅沢な時間に耐えた。



そろそろ帝人の忍耐が限界に近付いてきた時、扉の向こうからルリを呼ぶ声が聞こえてきた。「失礼しますね」とルリが部屋を出て行く。ちょっとだけ楽になった気がして、思わずほうっと息を吐くと、肩に白い綺麗な手が触れた。
「ごめん」
「え、」
「・・・ごめんね、急にこんなところまで呼び出して」
端整な顔がふわりと近づき、額と額がぶつかった。かあっと頬に熱がのぼるが、帝人が動かなかった。表情の出ない幽は、結構即物的な接触を好むことを知っているからだ。安心するのだと以前言っていたことを思い出す。
「本当は、俺が会いにいきたかったけど」
最近忙しくてと疲れの滲んだ声に、帝人は頬を赤らめたまま、そっと艶やかな髪に手をやる。そのまま撫ぜるように梳くと、幽は気持ち良さげ目元を緩め、帝人の肩に頭を乗せた。
「・・・・会いたかった」
素直な言葉に、帝人は恥かしさよりも嬉しさが込み上げてくるのを自覚する。やっぱり、帝人も結局寂しかったのだ。
「僕も、会いたかったです」
驚いたし、ちょっとだけ居た堪れなかったけれど、ルリさんとも話せて結構得したかもと帝人は思った。ひとは現金なものなのだ。



それから暫くして、ルリが戻ってくる。出番だと告げられ、幽は帝人から身を起こすと「充電完了」と呟いた。それに思わず帝人が吹きだすと、抗議のように頬を突かれる。軽くいなしながら幽と一緒にソファから立ち上がる。
「いってらっしゃい、がんばってくださいね」
「うん」
「ルリさんも」
「え?」
「いってらっしゃい」
「・・・・・・はい、いってきます」
綺麗な笑顔だった。帝人が思わず見惚れると、幽に目隠しをされた。
「わわっ、幽さん?!」
「駄目。帝人は俺の恋人なんだから」
「友達は駄目ですか?」
「・・・・・・・・友達、なら」
沈黙の末の譲歩に、帝人とルリは顔を見合わせ笑った。






(君はSTARだけど、僕の可愛い恋人なの)
作品名:君はSTAR! 作家名:いの