どうしようもなく卑怯
それが時に相手を苛立たせ、焦らせ、終いにはそんな隙をついて相手を陥落させる。
――彼の常套手段だ。
わかっていても、ひっかかってしまう、その巧妙さが憎らしい。
「あなたは卑怯な人です」
「知ってるよ」
「そして酷い人だ」
どれだけ罵ろうとも、薄く浮かべた笑いを崩さない。それが悔しくて、どうしようもできない自分が情けなくて、ぎりっと奥歯を噛んだ。
「本当は、知らないんでしょう」
「どうかな。俺は情報屋だよ」
その余裕のある顔を崩してやりたい、と思う。しかし、自分では役不足だということも、痛いほどわかっている。
悔しい。
彼の一向に崩れない表情に、焦りを覚える。だが、それこそ彼の思うつぼだ。冷静になれ、と自分に必死に言い聞かせる。
でも、それも彼の一言で一瞬で瓦解してしまうのだ。
「俺のこと、好きだよね。帝人くん」
「……っ」
動揺が顔に浮かんでしまっていることだろう。一層深くなった彼の笑みで、そのことを悟る。
慌てて、彼の視線から隠れるように俯くが、すぐに顔を上げさせられてしまう。
両頬を挟んだ手は、冷たかった。それなのに、触れられたそこは酷く熱い気がした。
その熱に、指先が震える。
「……っ。知りませんっ。離してください!」
振り払おうとした手を、ぱしりと取られた。触らないでほしい。
震えが、伝わってしまう。
「帝人くん」
名前を呼ばれて、心臓が跳ねる。一瞬抵抗が止んだ隙に、両手を壁に押し付けられてしまう。
「帝人くん」
名前を呼ばないで。触らないで。折角隠してきたのに。
無闇に暴こうとする彼が、憎くて、それでも――
自分の気持ちを言うつもりもないのに、僕にばかり言わせようとする。このどうしようなく卑怯で、酷い人の言葉を、否定できない僕が悔しい。
全部知ったような顔をして。それでも言葉を欲しがるこの人が。
僕は、好きで好きでどうしようもないのだ。
作品名:どうしようもなく卑怯 作家名:コウジ