永遠の親友
俺はユイに告白したんだ。
来世でユイと結婚する。
あれは俺の本気だ。
本気だったはずだ。
なのに今、その本気が揺らいでいるのはなぜなんだ?
突如現れた影も消え去り、この世界に再び平和が訪れた。
ただし、一度覚悟した者たちの意思は変わることなく、
みんな自分の人生を清算してこの学園を卒業していった。
そして残るは、目覚めないゆりっぺと、音無、天使、直井、俺の5人だ。
天使の「卒業式って楽しいの?」発言から、音無が率先して卒業式の準備を始めた。
ゆりっぺが目覚めて、ゆりっぺの人生の清算が終わったらみんなで卒業式をする。
「おい、日向ーっ!ちょっとこっち手伝ってくれよ!」
「おう!」
今まさにその準備の真っ最中ってわけだ。
音無のやる気がすごいったらなんの。
大好きな天使ちゃんの夢を叶えるためだもんなー。
それが音無のやりたいことだってんなら手伝うさ。
音無が天使の夢を叶えたいように、俺は音無の夢を叶えたいんだ。
お前が笑っていれば俺は笑っていられる。
「日向、こんなところにいたのか」
屋上で1人で休憩していたら音無がやってきた。
「天使ほっといていいのかよ?」
「奏は今ゆりのとこ行ってる」
「お前は行かねぇの?」
「んー…最近日向とあんま喋ってねーなと思ってさ。いや、話してはいるんだが」
「なんだよ、それ」
笑いながら言ってやる。
少しは寂しいと感じてくれてるってことか?
だといいんだけどな…。
「日向?どうしたんだ?」
「ん?なにが?」
音無が俺の顔を覗き込んできた。
やっぱこいつかわいい顔してるよな。
ほっぺたとかさらさらぷにぷにしてるんだろうな…
「にゃ!?にゃにすんだよ日向っ!」
「わっわりぃ!痛かったか?」
身体は本能に充実だったようで、俺の手は音無のほっぺたをつねっていた。
音無の声で我に返って放しちまったけど、もっと触っていたかったな。
「いや、大丈夫だけど…ホントどうしたんだよ?」
「んー…」
俺は音無が好きだ。
仲間としてじゃない、友達としてじゃない、音無に触れたい、キスしたい、抱きしめたい、抱きたい。
そういう意味で音無を意識している自分がいる。
まさか音無に対してそんな感情を抱くとは思ってもみなかったぜ。
音無に言ってしまおうか。何度もそう思ってきた。
言葉にできなかったのは、やっぱりその後のことが怖いから。
ましてや今となっては完璧に玉砕覚悟だ。
でも、
こんなに胸が痛むのもきっとあと少しの辛抱だ。
あと少しでお別れなんだよな…。
「日向っ!何かあるなら言えよ。俺で力になれることなら、なるから」
どうしてお前はそんなに優しいんだ?
誰にでも優しくできるんだ?
こんな俺にまで優しくしてくれるんだ?
もう、耐えられないじゃないか…。
「音無、色々ありがとな。音無に出会えて本当によかったよ」
「なんだよ急にあらたまって。具合でも悪いのか?」
「まぁまぁ、聞いてくれよ」
言ってしまおう。
言ったら少しは楽になるだろうか。
それとも余計つらくなるだろうか。
わからないけど、今は少しでも俺の想いを伝えられたらいいなと思うんだ。
「俺さ、ゆりっぺと長いこと戦線やってきてさ、大事な仲間がいっぱいできた。
だからゆりっぺには感謝してる。ゆりっぺが戦線を立ち上げてくれたおかげで出会えたんだからな」
「そうだな。俺もみんなに感謝してるよ。なんだかんだ楽しかった」
俺は音無の中でどれくらいの存在なんだ?
ただの仲間のうちの1人にしかすぎないのか?
少しは他の奴よりイイ友達に…親友になれていないだろうか?
「なにより音無、お前に出会えて嬉しかった」
やべ…涙が出そうだ。
でも泣いちゃだめだ。今は泣けない。
涙を押しとどめて、俺はまっすぐ音無と目を合わせた。
「俺、お前のこと好きだよ」
同じ気持ちを求めやしない。
そんなこと無理だってわかってるから。
俺の気持ちを押し付けたりもしない。
でも、でもどうか、嫌いにだけはならないでほしい。
音無っ…
「お前…コレなのか?」
俺はっ…
「…っ…ちっげーよ!」
俺は…笑うしかないじゃないか。
いつものように、今までのように、笑い事にするしか…できないじゃないか…。
こうして笑っていれば、今までの関係を崩さずに済むんだよな。
それなら俺にはこうすることしかできない。
わかってたさ。
わかっていたんだ。
でも俺のふんぎりがつかなかった。
このまま去っていけなかった。
このまま来世でユイと結婚なんてできなかった。
だから言っておきたかったんだ。
音無に、ふられたかったんだ…。
それからほどなくしてゆりっぺは目覚め、ちゃんと心の整理もついたようだ。
ずっと見てきたからな、ゆりっぺが晴れやかな顔をしているのをみて嬉しくも思ったんだぜ?
「卒業生退場!」
もうすぐ別れが来る。いや、旅立ちだ。
「ありがとう…ございましたっ」
直井がきえた。
なぁ音無、お前が来てから本当に楽しかったんだぜ。
本当はもっとずっと一緒に冗談言ったりアホやったり騒いで笑っていたかった。
「また会いましょう!」
ゆりっぺがきえた。
ずっと心配だったゆりっぺも無事成仏できた。
もう思い残すことはないだろ、俺。
俺もいくんだ、幸せな来世へ。
音無には天使がいる、俺にはユイがいる。
それでいいじゃないか。それが円満な結末だ。
音無とずっと一緒にいたかった。
でもそれは音無の幸せじゃないんだ。
だからいかなきゃいけない。
ここで立ち止まってはいけないんだ。
「まぁ俺だわな、順番的に言って」
俺にはユイとの幸せな来世が待っているはずだ。
音無のいない来世が。
「ま、長話もなんだ…じゃっ、行くわ」
行くな、なんて言ってくれるわけもないのに待ってしまう。
なんて女々しいんだよ、俺は。自分で自分がなさけないぜ。
「ああ、会えたら…ユイにもよろしく」
ありがとな、音無。
俺はお前のイイ友達でいられたか?
音無が俺を親友だと思ってくれてるかなんてわからないが、
最期にそのくらい言わせてくれ。
他の戦線メンバーと同じくくりにはなりたくない。
一生…いや、永遠に俺たちは親友だ。
「じゃあな!『親友』!!」
愛してたよ、音無。
音無の幸せを願ってるぜ。