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I wanna marry you

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「じゃあこの訳は?」
「えっと『私は何者でもない』かな?」
「正解です。では次は?」
「うーん……『あなたは気付かせてくれた』?」
「正解です」

 ワグナリアの休憩室。
 今日のシフトが終わって着替えた私は宗太君と英語の勉強をしていた。
 事務机を挟んで対面に座って、宗太君が出題して私が答える。
 本来ならゆっくりと休みの日に二人切りでしたいところだけど、今の私にはそのような余裕はなかった。
 その理由は。

「ありがとう宗太君。この調子なら明日の小テスト、何とかなるかも」
「いえ、まひるさんの役に立てて俺としては嬉しい限りですよ」
「そ、そう? ありがと!」
「はい、どういたしまして」

 明日に差し迫った英語の小テストを乗り切るという、何とも忙しい理由だったからだ。

 単語の暗記なら家に帰ってから一人でもしやすいけど、リスニングや文章問題は二人でやった方が効率がいいから。
 なんて、理に適っているのか適っていないのかよく解らない理由を並べ立てて、一緒にいたいだけだったりもする。


「あと一問やって帰りましょうか。店の方も慌しくなってきましたし」
「うん、そうだね」

 折りしも時間は夕飯時。
 フロアやキッチンの方に耳を傾けると、八千代さんのオーダー確認の声や佐藤さんのフロアスタッフを呼ぶ声も聞こえてくる。
 自分達のシフトが終わっているとはいえ、店が忙しい中でずっと休憩室に居座り続けるのは気持ち良いものでもないし。
 この二人切りの僅かな時間の勉強会もそろそろ終わりかな。

「ではテキストを見てください。これの訳は?」
「この接尾語は名詞と合わせると『ない』を意味するから……『愛なき世界』かな?」
「はい、正解です」
「『愛なき世界』か……何か悲しいね。そんなの」
「そう、ですね」

 答えておいて、何かちょっと引っかかって。
 それを口にして、微妙な空気になってしまって。
 この言葉を最初に考えた人も、それを訳した人も、出題した宗太君も悪いわけじゃないのに。

「あの……」
「ごめんね。帰ろっか」

 居た堪れなくなった私は何かを言いかけた宗太君を遮り、机に出していたノートやペンケースを鞄に片付けると、帰宅の声を掛けた。
 帰り道はきっと気まずいんだろうな、と思いながらも。
 私がよく読む小説にはあまり出てこないような、その人の『愛のない世界』の在り方、が心を巡る。
 それを踏まえた上での、悲しい、なのかな?


「待って下さいまひるさん」
「どうしたの?」

 鞄を持って通路まで出かかっていた私を、真剣な顔で呼び止めるように言う。

「俺は、俺はまひるさんを悲しませたりしません」

 そして目を瞑り一呼吸し。

「『愛なき世界』なんかにさせません」

 意を決したかのように。

「最後に、リスニング問題です。俺がまひるさんに知っておいてほしい事を英語で言いますね。いいですか?」
「うん。今なら宗太君のどんな言葉だって解る気がするよ」

 柔らかい笑顔で確認を取る宗太君を見ていると、心の強張りが自然と融解していて。
 ただそれだけの事なのに、もう私達には何もかもが通じ合っているかのように思えた。



「では、────」 


 僅かな緊張が、後ろ手に持った鞄を握る音となって、ギュッと鳴った気がした。
 




 結論を言うと。 
 直前までの勉強の成果なのか、私は本当にその言葉の意味が理解できた。
 私達の関係の幼さから考えてみれば反則的なまでに段階を飛ばしたその決め台詞に。
 私は、答えて、応えて、いた。


「あら、二人ともまだ帰ってなかったの?」
「おお八千代。お前もサボりか?」
「潤君、いくらさっき少しだけ忙しかったからってすぐにサボりにくるのは良くないと思うの」
「はいはい分かった分かった。それで、だ。小鳥遊、伊波。八千代も来た事だしもう一回頼む」
「どうしたの? 小鳥遊君もまひるちゃんも真っ赤な顔して大丈夫?」


 まさかすぐそこにサボりに来た佐藤さんがいたなんて。
 まさか宗太君があんな事を言うなんて。
 まさかそれに疑いも躊躇いもなくこたえてしまうなんて。

 あんなプロポーズみたいな言葉に!

作品名:I wanna marry you 作家名:ひさと翼