ツキアカリ
「おい、何してんだ。お前ら」
まだ新品・・というか以前のものを電柱で破損し、買い替えたばかりの白バイのライトを威嚇に三回点滅させると、叩きのめされていた男たちはそそくさと足を引きずるようにして逃げてしまった。
「・・・やべ、葛原だ」
「あいつに捕まるとろくな事になんねぇから行くぞ」
圧倒的な不利に対しての捨て台詞を吐き捨てられ、多少苛立ったものの律儀に待っていた・・眼鏡の男に声をかけた。見た目としてはロングヘアでインテリの風貌でもしかしたら彼女をとられた腹いせで・・と少し勘ぐって眺めると男が怪訝そうな表情になったので止めた。
「何やってたんだ?仇にしては・・三人じゃ馬鹿らしいだろ。男一人で十分だからな」
「えっ・・あー、バイト先の女の子が、その筋のとこに借金してたらしく・・・」
「正義の味方っぽく、助けに行ったわけだ。はぁ・・馬鹿らしいな。てめぇ」
「あ、田中といいます。一応身分証明も」
――俺は正義の味方というものが嫌いだ。警察一家の家柄だった俺は、人から恨みを買いやすい。例え彼女に今すぐ会いたくて飛ばしたという青年やキスを彼女に迫られてと無灯火で車道にバイクを止めているカップルにも容赦なく注意する。最近だと首なしライダーといった先輩泣かせのやつまで出る始末で・・俺をはじめとした警察陣はどこか脇のような扱いを受けているように感じる。
「お前はその彼女にありがとうと言われるが俺は感謝されねぇんだからな」
「・・・・すいません」
葛原は田中の身分証明をちらりと見ると、何も言わずポケットから絆創膏を手に取り、怪我をしている田中の頬につけてやると少し嬉しそうに笑ってこっちを見た。
「警察の人って優しいっすね・・俺ちょっと尊敬しますよ」
「・・・てめぇはどんな職業なんだ?職質かける気なんかねぇが聞いておく」
どうやらコイツは表の仕事ではなく裏の仕事をしているらしい。まぁ俺には関係のない管轄だからな・・・でも怪我をしているコイツをどこかほっとけないような気がする。
「ま、俺らに目をつけられねぇように注意するこった」
「・・・・・わかりましたー」
葛原はそう言うと田中の身分証明書を返し、バイクを走らせて署内へ戻った。頼り無い見た目の田中の傷口に絆創膏を張ったときの破顔した表情は葛原の脳裏に残り、じりじりと燻ってしまっている。そんな幻想から抜けようとしてもなかなか抜けずに離れようとはしなかった。
―――ああ、これって一目惚れか?
その事に気づき、田中と再会するまではまた、次の話。
END