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20080629ペーパー小ネタ

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控えめに寝室の扉をノックをしてから扉を開けると、案の定XANXUSはまだベッドで眠っていた。
 迅速な処理が必要な任務だったこともあり早々に報告書を作成し、まだXANXUSが私室にいることを承知の上でそれを持ち込んだスクアーロは予想通りの光景に相好を弛ませる。XANXUSがまだ眠っていると言うことは今日はまだこの部屋に誰も訪れていないと言うことだ。
 職業柄二十四時間常に勤務中と言っても過言ではないヴァリアーの、その責任者ともなればXANXUSはたとえ休養を取っている時であろうとも、容赦なく報告が入ってくる身である。それまで生きてきた境遇のせいか、XANXUSの眠りは浅い。ほんの少しの物音、それどころか、時によっては何者かの気配を僅かに感じただけでも目を覚ましてしまう。
 その例外に当たっているのが紛う方ないスクアーロであり、彼の気配にだけはXANXUSは他者に対するような反応を返さず、スクアーロが近寄ろうとも過敏な反応を返して目覚めることはない。それに気づいたのがいつの頃からか、スクアーロはすっかりと忘れてしまったのだがそれでもXANXUSが眠っていられるのならば己はその側にいようといつしか考えるようになっていた。
 スクアーロは寝室に入ると手にしていた書類をサイドテーブルに置き、できるだけ音を立てないようにしてXANXUSの眠るベッドの縁に腰をかける。僅かに軋む音がし、スクアーロの体重によってベッドは傾いたがそれでもXANXUSの目覚める気配はない。XANXUSの顔を上から覗き込み、その額に触れるだけの口づけを落としても同様で、いくらなんでも気を許しすぎなのではないかとスクアーロは思った。
「報告書持って来たぜぇ……XANXUS」
 限りなく小声でスクアーロはXANXUSの寝顔に囁く。目覚めを促したい訳ではなかったので反応が返らないことも気にはならない。静かな寝息を立てて眠り続けるXANXUSの顔を見つめ、スクアーロは右手を伸ばしてその前髪を指先で梳いた。ゆっくりと繰り返しその動きを繰り返していると、不意にスクアーロの神経が何者かの気配を感じ取る。と同時に今まで眠っていた筈のXANXUSが目を開け、スクアーロは苦笑した。
「疲れてんだろ、まだ寝とけぇ。俺が出る」
 スクアーロがそう言ってXANXUSの瞼を掌で覆ったとき、寝室の外、XANXUSの私室の扉を叩く音がした。
 スクアーロの手に目を覆われたまま無言で深く吐息を漏らすXANXUSに、スクアーロはそれを了承の意と捉える。XANXUSの瞼に触れていた手を滑らせて彼の髪に指先を通すと、立ち上がって扉の方へ向かった。
 控えめなノックから訪れた人物の予想はついていたが、スクアーロは敢えて扉を開けることなく誰何の声を上げる。
「誰だぁ」
「ルッスーリアよ」
 返るそれはスクアーロの予想通りのもので、それでも念のためスクアーロは手の内にナイフを潜ませながら細く扉を開ける。
「何の用だぁ。ボスならまだ寝てるぜぇ」
「そう思ったんだけどね、ほら、あなたも行ったあの任務。私も別件で関わってたから報告書早めの方がいいかしらと思って」
 そう言ってドアの隙間から書類を差し込んでくるルッスーリアはそれ以上踏み込んで来ようとはしない。これがレヴィだったら面倒なことになるところだった、と思いスクアーロは無意識に渋い顔をしてしまう。
「まだボスはお休みなのよね。それ、渡しておいてくれる?」
「 お゛ぉ、いいぜぇ」
 スクアーロは頷いて差し出されていた書類を受け取る。ルッスーリアはお願いね、とドア越しに言いながら自ら開けられていた扉を閉じた。



「どいつもこいつも仕事熱心で結構な事だ」
 ルッスーリアの報告書を片手に寝室に戻ったスクアーロを、ベッドに身を起こしたXANXUSが欠伸混じりに迎える。スクアーロはベッドサイドに置かれたグラスに冷えた水を注ぐとXANXUSに手渡した。グラスを受け取ったXANXUSは一気にそれを飲み干すとグラスを元の位置に戻し、ベッドから降りる。
「優秀な奴らばかりで涙が出るな」
「嘘つけぇ、そんな顔してねーぞぉ」
「解ってんならてめーがいるときぐらい誰も近づけんじゃねぇ。まともに寝かせろ」
 間髪入れずに返したそれに、さらに間髪を入れずそう返されてスクアーロはぐっと言葉に詰まる。そんなスクアーロを鼻で笑ったXANXUSは、隊服に着替えるためクロークへと向かっていった。
作品名:20080629ペーパー小ネタ 作家名:あや