Louez notre fondateur. 1
静帝
未来捏造
帝人くん24歳・公務員兼情報屋
トムさんは独立して取り立て屋さん
シズちゃんはトムさんについて行きました
赤い月が出た夜は、けっして外に出てはいけないよ。
恐ろしい魔女が箒に跨り、黒い使い魔を引き連れて人々へ呪いをふりまくから。
呪いを浴びたら、体中に不思議な斑点が出来て苦しみもがきながら死んでしまうのさ。
気をつけるんだよ。
生温かい風が吹いて、月に黒い雲がかかっている夜には気をつけなさい。
夜な夜な血を求めて吸血鬼が空を飛んでいるから。
特に若い娘は要注意さ。
首筋を一噛みでもされたら大変だ。
永遠の眠りについてしまうよ。
雲一つ無い美しい月夜に外に出てはいけないよ。
首の無い女が首無し馬を引き連れ馬車に乗って黄泉へと連れて行こうとするから。
首無し女を見かけてもダメだ。
もし見てしまったならば、禍々しい血潮を吹きかけられてしまうよ。
さあさあ、良い子は寝る時間だ。
怖くは無いよ。
今日は月の無い日だから、魔の類は姿が見えないんだよ。
そうさ、魔界の者は月明かりに己の姿を反射させて私達に見せつけるのさ。
自分達の偏った姿を。
***
「あ、あんたが田中トムか?」
唇を青くさせガチガチと歯を鳴らしたチンピラ風の男が、この事務所に訪れたのは偶然か必然か。
男が来ている派手な市松模様が描かれたガラシャツは萎び、おそらく以前は白さを誇っていたであろうスーツの裾は激しい泥汚れが目立っていた。
チンピラ風の男の首元にネクタイは無い。
その代わりと言ってはなんだが、彼の首には細い紐か何かでつけられた痣が首を一周するようにあった。
ワックスで整える余裕すら無いのか、茶髪の髪はくたりと重力に逆らうことなくヘタっており、手首に巻かれた金色の某ブランドの腕時計は11時48分を指示したままフリーズ状態。
非常に残念―――いや、非常に惨たらしい装いで現れた男に田中トムは盛大なため息をついてやった。
「あ、あんた…に頼みがある。俺を、俺を…!ダラーズのボスに会わせてくれ!」
ウチは仲介屋じゃ無くて取り立て屋なんだけどなーと、独立するのを早まったかと田中トムは考えながら、本日13本目の煙草に火をつけた。
End.
作品名:Louez notre fondateur. 1 作家名:ひじり