道行
呼吸するたび、ぜろぜろと耳障りな音が響いてうるさい。
おおかた二三本折られた肋骨が、肺にでも刺さっているのだろう。
霧のように降りそそぐ雨で濡れそぼった身体から、血が流れ出で、じわじわと身体が冷えていく。
「なあハンガリー」
ヒュウヒュウと不快な音の混じる声で、プロイセンは傍らの女に微かに尋ねる。
「なんで、逃げなかった」
「…わからない」
掠れた声で、女が返す。
愛らしい顔は腫れ上がり唇からは血が流れ出ている。
ボロ雑巾のような格好で、彼女は微かに口の端を上げてみせると、力つきたように彼の肩に頭をもたせかけた。
「――馬鹿が」
なにか温いものが込み上げてつん、と鼻の奥をさし、プロイセンはほんのわずかに声を震わせた。
女の、すっかり痛んで濡れた髪の感触と、熱い体温を背中に感じる。
泥の中。
雨にうたれて。
動かない身体で。
屈辱にまみれた敗北を待ちながら。
何故だろう。
今、ここで。
死んでもいいな、と少し思った。