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咽せ返るほどの、

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市場で買ってきた紙袋には、何やらどっさり葉が入っていた。小さく小分けにされたそれらは、覗き込むとやたらと強烈な匂いになって鼻腔を刺激してくる。
「なにこれ?」
「ハーブとか木の実とか。安いから纏め買いしちゃった」
鼻を摘むパフォーマンスで振り返ったリディルを笑いながら、シュレが小さな袋を取り出し一つずつ名前を言う。
「これはミント、なんにでも使える。こっちはルイボス、今日はこれでお茶にしようか」
少し前に沸かした温度の残るポットをもう一度火にかけるためキッチンへとシュレは足を向け、リディルは再び袋をそうっと覗き込んだ。今度は鼻を近づけすぎないようにして、いくつか目についたものを引っ張り出す。
「これは…僕でもわかるよ、月桂樹の葉だ。シチューに入れる」
「うん、スープ類全般に使えるね。美味しいよ」
シュ、とポットのなる音がして、それはすぐに止んだ。そして茶器が鳴る音が続く。外は明るく、日差しは柔らかい。部屋には様々な香りが溢れている。
ハーブの種類を数えながら、リディルは非現実的だな、とふと思った。何かが乖離した世界。鼻腔をくすぐる香がつよくて眩暈がする。
いつの間にか、シュレは紅茶を淹れ終わったようだった。ポットからも独特の、けれど知っている香がして、その口から溢れる色も予想が付く。鮮やかな赤色がカップに満ちていく。
「美味しい?」
「……うん」
赤い紅茶が喉を滑り落ち、鼻腔からすっと香が抜けた。まとわり付いていた他のハーブの香は一瞬消えたが、香はすぐに戻ってくる。シュレは平気なんだろうか。
米神が痛い。

白いカップとソーサー、磨かれた木の机。散らばった緑の葉たちの向こうで彼はいつもと同じように笑っている。
そう、それはいつもの風景だ。別段何の変わりもない。
この部屋に倒錯を感じるのは、きっと香のせいだ、とリディルは眉を寄せた。





[咽せ返るほどの、]-2010.09.22(お題:レゴ http://itsuki.zouri.jp/)
作品名:咽せ返るほどの、 作家名:ゆきおみ