透き通った雨模様
ドライヤーと格闘して整えた髪は濡れて水滴が伝い落ちている、不可抗力で湿ったスカートの端と同様に重くなっている。用事がなければあまり出掛けたくはない程の降水量ではないことが幸い。
この刻限、ある程度の人通りの多さ、何よりもこの天候。一握りの数しか知り得ないが、ここ池袋にはとある条件下で不定期に控えめな祭りが通る。一応見分け方があり、通行する人々の進行方向が同一であることを、俯きがちな天候のおかげで大部分が紛れかけているが見付ければ後は簡単で、その中に居るある人をどうにかして探し出せれば確定する。
あ、見つけた。
早足に水が跳ねるが意識から閉め出す。傘の下で人々が俯きがちにしている中で、何かしらの面白い変わり種を見つけようと、目を凝らしているかのようなその人の処へ一直線にゆく。
「来るもの拒まずの自由参加だけど、折原さん雨があんまりすきじゃないみたいだから」
「何言うのかな委員長、そんなのとるに足らないことだから、ね?」
そんな感じに適当に嘯きながら、自分の広げていた傘を畳み片腕を絡め、すまし顔でさり気なさを装い胸を押し付けつつ、委員長の傘の下に入る。此方に聞かせる為の大きめな溜息は聞き流す。
付き合ってくれる散歩仲間が気が付けば増し、このような祭り染みた集まりとなっているという。辺りを見渡せば見知った顔ぶれも混在していて、委員長は動向もやはり透明度が高いと改めて思う。
少しずつ相合傘相手の遣り取りが好ましい性質に軟化しているとはいえ、もしかして複数ものライバルを発見してしまったのかという、外れてはいなさそうな心配に肩を落とした。
だがまあ、二人きりではないけれど、こんな雨の日事情による嬉しいオマケが付いたデートは心から楽しい。
気が付けば傘は此方を覆う面積がより割かれていて、その為に仕方ないという風に密着して貰っている。道路側を決して歩かせることをせず、常に庇われている。また合わせわれた歩調が女の子扱いからして花丸で、綻ぶ口元を見てしまったらしい委員長のそむけられ片面だけになった頬が僅かに赤らんでいて、何よりも歓喜を湧かせる。未だ正面には向いて貰えないけれども、精々全力の長期戦といこうかな。
やはり、安易に一筋縄ではいかない。だからこそ飽き性でもある自分を放さない、これが恋とやらなんだろう。傘で制限されたかのように視界は狭く、まるで盲目寸前。面倒で手間が掛かって、意識のおおよそを奪われて、そうしてどうしようもない、恋とやら。