We 'll Never Cry for Love
淡いブルーの照明に照らされて、最強と謳われた男は静かに永眠っていた。
いつだったか。
臥所をともにした夜、隣で眠る「バケモノ」の無邪気な寝顔に、もしこれが死に顔であったならば見下ろす自分はさぞかし満悦だろうと想像したことがあった。
当然の予想だ。
平和島静雄と折原臨也は互いに命すら奪い合う中なのだから。
そのはずだったのに。
「何でだろうね、シズちゃん。」
今、現実に検死台に横たわる静雄を見下ろす臨也の心は満足とは程遠い感情で溢れている。
否、何かしら思うところはあるはずなのにそこからは何の感情も衝動も生まれて来ない。
まったくの、無。
まるで、今やただの抜け殻と化してしまったこの男のように。
がらんどうになった、臨也の心。
それは、死の感触にひどく似ている気がした。
仕掛けた罠はこれまでに無いほど大規模な抗争を巻き起こし、そこに引きずり込まれた静雄にも未曾有の命の危機が訪れることは予測済みだった。
けれど、同時にこれまでの静雄のしぶとさから、今回もまた持ち前の頑丈さでどうにか切り抜けてしまうだろうとも考えていた。
いつものことだ。
こちらは安全地帯から楽しませてもらおう。
いつもどおり後者の予想が当たったら、また二人で「踊れば」いい。
けれど、これまたいつもの通り、平和島静雄は折原臨也の予想を裏切った。
「どうして忘れていたんだろうね。君はいつだって俺の思い通りになんか動いてくれないってことをさ。」
乱闘の中、誰かが放った弾丸。その一発が彼を貫いた。いかに筋骨が非人間的な強度を誇る平和島静雄でも眼球や内臓まで鍛えることなど出来ない。
眼窩に吸い込まれた弾に頭部を打ち抜かれ、「池袋の喧嘩人形」は絶命した。
「どうやら俺はシズちゃんを甘く見ていたみたいだ。この俺の期待をここまで見事に外してくれるなんてさ。」
もう、池袋に行っても不機嫌な金髪のバーテン服の背を見つけることは無いだろう。
この街のどこかで臨也が静雄と出会い、命がけのダンスに誘われる日常は永久に失われてしまったのだ。
「やっぱり、俺は君が大っ嫌いだよ。シズちゃん。」
「じゃあね。」
さよなら、最後の最期まで意地悪だった君。
雫が頬を濡らしたのは、試合に勝って勝負に負けた悔しさのせいだと言い訳した。
FIN.(道連れにされた俺の負け。)
作品名:We 'll Never Cry for Love 作家名:elmana