純白の強欲
他人の外面ほど信用出来ないものはない。
そう張り詰めて生きてきたのに。
【純白の強欲】
真田幸村がまともに嘘を吐いたのを、政宗は見たことがなかった。
例えば客用の茶菓子をこっそり食ってしまった時のように何とか誤魔化そうと試みていることはあったが、結局は後ろめたさが表に出て見抜かれるのが常である。
それは相手が誰であれ変わらない。
だからこそ、その言葉を聞いた時にも戯言だと退けることは叶わなかったのだ。
「幸村は貴殿をお慕い申しております、政宗殿。」
何のjokeだと笑い飛ばせたら良かったのかもしれない。
彼の本性など気付かなかったふりをして。
けれど、あの魂をも貫く二槍のような視線に射抜かれた時点で勝負は決していた。幸村の言葉は彼の真実そのもので、向き合わずして逃れることは出来ないのだと。
けれど、未だ決めかねている。
無駄と知りつつ疑っているふりをしたまま答えない。そんならしくない誤魔化しを続けている。
「何でダメなの?」
浮いた話の好きな閨の相手はしつこくそう尋ねる。
誠実そうに見えて己の深部は見せない信用ならないこんな男と夜を過ごす方が気楽だった。
「何でもだ。」
あしらおうとすれば喰い下がってくる。慶次のおせっかいは筋金入りだ。
「ゆっきー、真っ直ぐだよ。」
「 I know. だからだ。」
「向いてると思うけどなー、まー坊には。」
「Shout up.」
歪んでいる。
政宗の生きる世界はいつも歪だった。
母を弾劾した父。息子を殺そうとした母。人形と化した弟。誰も愛さなくなった従兄弟。
皆が皆仮面をかぶってさも何事もなかったかのように日々をやり過ごす。何一つ実を伴わないまま時だけを進めてきた不気味なあの家に偽りでない何かなど存在し得なかった。
歪な世界から引き上げようと手を伸ばした優しい人たちは確かにいたけれど、自身もまた同様に歪んでしまったという事実はその手を取ることを躊躇わせた。
焦ることはないといいつつも、優しい彼らは忙しかった。
分かっていた。一緒にはいられない。幸せにはなれない。幸せには出来ない。
ひょい、と大きな手が煙草を取り上げた。
抗議するように睨みつけてはみたものの、風来坊ははぐらかすようにへらりと笑うだけだ。
「ねぇ、政宗。」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、慶次がゆっくりと煙草に唇を寄せる。
「また傷つくのが怖い?」
「ha…No,kidding.」
「Ya.I am serious、ってね。」
どうするの?
からかう様な、それでいて何かを切望するような視線に辟易して、傍らの枕を投げつけた。
気付いていた。
真っ直ぐな目の向こうにある想いには一片の曇りも穢れもないことに。
迷い無く、真実に、真田幸村は伊達政宗が欲しいと言った。
「…I hate you.」
閉じた瞳の奥にゆらめく赤を見た気がした。
Fin.(未だ穢れ知らぬ君の、欲望)