砂である。俺の目の前には大量の砂が溢れていた。砂。砂。砂。砂。砂。ここは砂の天国か。または砂の楽園か。それとも砂の墓場か。とりあえず、砂。砂色の、具体的に表すなら、薄茶色っぽい灰色っぽい純正の砂。紛れもない砂。つまり砂漠。いっさいの水気のない乾ききったそれらは俺を表しているかのようで、なんか笑えた。無味で、無為で、無駄で、無意識に、無意味に、無作為に。存在する、砂。手で掬いあげても、指の間からぱらぱらとこぼれてしまう。俺はそれを口に運ぶ。すぐに口の中の水分が奪われる。噛む。じゃりじゃりじゃりじゃりじゃり。一つ一つの粒はとても小さいくせに、これだけの量があれば歯の方が削られてしまうような感覚を受ける。じゃりじゃりじゃりじゃりじゃり。砂なのに砂利とはこれ如何に。じゃりじゃりじゃりじゃりじゃり。次々に手で掬って、口に流し込む。じゃりじゃりじゃりじゃり。コーヒーが飲みたい。じゃりじゃりじゃりじゃり。
じゃり。
しろい、裸足のあしが俺の視界に入る。顔をあげると、しろぱんつ。ではなくて、肉子。正しく肉色の、少女が花のようにたたずんでいた。風のせいでワンピースの裾がひらひらと舞って、ぱんつが丸見えだった。
……風?さっきまで無風だったのに。
さらさらと砂が、砂。持ち上がる。砂の小さな、本当に小さな粒たちが、風で飛んで、流れていく。砂が。砂が、砂が、砂が、砂が、砂、砂、砂、砂、砂、砂砂砂砂砂。
「ね、ね、すなくん」
その声で、かどうかは知らないがぴたりと風がやむ。肉子はくい、とかわいらしく首を傾げて、言った。
「た、たの、し、い?」
俺はなにか言おうとして口の中にまだ砂が残っていることに気づく。無理矢理分泌させた唾液で呑みくだす。ごくりと喉が鳴る。
俺はただ一言「うん」と言った。