お菓子短文
◆青葉と帝人の場合
目の前でポッキーを食べていた後輩が「ポッキー食べます?」ってさし出してきたのが視界の箸に見えて、
うっかり目線を合さないで頷くんじゃなかった。
「む…」
ポッキー咥えた後輩が有無をいわさずポッキーを咥えるように向けてくる、
ではなくて。二本ぐらいばりばりと口の中に放り込んで噛み砕いている途中で口移しをしてくるなんて誰が考えただろう。
こんなのポッキーゲームじゃないよ。
口の中がチョコ菓子の味でいっぱいになって吐きそうだ。
正臣とふざけてやったっけ。
はじめてすぐ首を思い切り振って折って、長い方を美味しく頂いた思い出。
笑って流して園原さんとも笑って。
今は押し倒されてるし重いし、眉間に思い切りシワを寄せたら嬉しそうにする。最悪。
蹴ろうかと足を少し動かしてようやく離れていった。
「先輩って、こう言うの嫌いですか」
「……楽しくはないよね」
とりあえず口の中のざらざらした菓子を砂みたいだと思いながら噛み砕いて飲み込んだ。
とたんにもともと大きな目を丸くしている。
「え、食べちゃうんですか?」
「吐き出す場所ないし、お菓子は嫌いじゃないもの、」
言いながら口元を袖で拭う。
うがいもしたいぐらいだ。
「僕てっきり吐き出されるかと思ってビニール袋も用意したんですけど」
「だからお菓子は嫌いじゃないってば。君は嫌いだけど」
なんだか不可思議な表情の青葉君は、最終的に困ったように笑った。
やっぱり嫌いだ。
その後普通にポッキーの袋をもらって食べた。
しばらくこういうお菓子もこういうふざけたこともしたくないなあって思った。
***
◆臨也と帝人の場合
「ポッキーもう食べた?」
「もう要らないです…」
家に帰れば帰ったで、まただ。
この時期にはようやく似つかわしいコートを着てドアの前で臨也さんが待っていた。
「ああそう、さんざん食べたのかな?それとも散々なくわされかたでもしたのかな?」
「チョコ菓子、嫌いじゃないんですけど大量に食べると流石に、……とそういう事で」
横を通り抜けようとしたけれども失敗した。腕をつかまれてお菓子の箱を手渡される。
「じゃあプリッツ食べようプリッツ」
「お茶ぐらいしか出ないですよ。食べたら帰ってくださいね…」
帰って欲しいと告げたところで無駄なのは過去の経験からなんとなく把握している。
「ちゃんと帰るよ、そこまで暇じゃないしさあ」
ドアを開けて入ると、勝手知ったる他人の家とばかりに座布団を出して座っている。
プリッツをとりあえず皿にでも盛ろうと思って箱を手に取った。
「………」
違和感を感じてしばらくパッケージをみて、ゴミ箱に捨てた。
うえから飲みかけて賞味期限を迎えたパックの飲み物も捨てる。
その様子を驚くわけでもなくニヤニヤしながら臨也さんは眺めていた。
「あーあ、勘がいいのってたまにむかつくよね」
「しばらくお菓子とか食べたくなくなるようなことしないでくださいよ…疲れます」
「君の警戒度を調べてみたかったからさあ」
「パッケージが空いていて、すごく嫌な予感がしたので」
「あはは!!やっぱどんどん変わっていくよね!前は飲み差しでも飲んでくれたのにさ、」
君のそういうところすきだよ!と抱きついてこられても、本当迷惑なのでやめてほしい。
今思えばゾッとする。
実際には何も入ってなかったけれども飲んだあとで「それに毒が――はいってたらどうするの?」なんて悪趣味な。
***
来年の同じ日には幼なじみとまた馬鹿やってたいな、と思いながら眠りについた。